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目指すは「はやぶさ」

 抗がん剤内包高分子ミセルなどのDDSは、スマートナノマシンの実現に向けたいわば第1ステップ。片岡氏はその先を見据えている。

 最近力を入れているテーマの1つが、診断と治療の両方をこなす薬剤の開発だ。2016年5月に発表した「ナノマシン造影剤」はそこに向けた成果の1つ(関連記事2)。がん組織の悪性度や治療抵抗性に関係する低酸素領域を、MRIで可視化できる薬剤である。マンガン造影剤をリン酸カルシウムナノ粒子に搭載したもので、がんの低PH環境に応答して造影剤を放出する。そのメカニズムは、抗がん剤内包高分子ミセルとよく似ている。

 薬剤を患部に届ける(delivery)のではなく、“その場で創る(in situ drug prodution)”ための研究も進めている。例えば、細胞内の遺伝子に光を当てることでその機能を制御し、たんぱく質を作らせるようなことが可能。こうした技術を使い、患部やその近くで薬を創ってしまう。

 アルツハイマー病など、がん以外の難治性疾患へと適用を広げることも大きな目標という。脳には、異物を侵入させないようにする「血液脳関門」と呼ぶ機構があり、薬剤が届きにくいという難しさがある。これに対し片岡氏らは、ポリオウイルスがこの関門をかいくぐって脳に侵入するメカニズムを活用し、脳神経細胞にまで届く薬剤の開発を狙っている。

 片岡氏が描く究極の姿は、体内をくまなくめぐって患部の生体情報を収集し、体内に埋め込んだチップへと“帰還”するようなナノマシン。チップで疾患を診断し、その情報を体外へと無線で飛ばす。小惑星探査機の「はやぶさのような仕組み。ここまでできれば、スマートナノマシンと呼ぶにふさわしいシステムになる」(片岡氏)。