「治療の実態と保険点数が合っていない」
低侵襲手術の普及が遅れているとされる婦人科領域では、腹腔鏡下膣式子宮全摘術と腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がんに限る)が保険適用となった。この1年で「登録施設と症例数は順調に増加している」と京都大学医学研究科 婦人科学産科学分野の万代昌紀氏は言う。
しかし、実は今回の改定では子宮体がんの傍大動脈リンパ節郭清が含まれていないなど「治療の実態と保険点数が合っていない」と万代氏は指摘する。これを解消するために、症例数を増やしてda Vinci手術の優位性を示していきたい考えだ。
手術時間と弁形成の質で有意差
胸腔鏡下弁形成術のda Vinci手術が保険適用された心臓血管外科領域では、憎帽弁形成術をda Vinci手術と直視下手術のそれぞれで行ったデータを分析したところ、da Vinci手術の方が手術時間が短く、弁形成の質が向上する傾向が見られたという。ただし心臓血管外科では、ロボット支援手術は「まだまだ導入されたばかり」(国立循環器病研究センター 心臓血管外科の角田宇司氏)という位置付けのようだ。
da Vinci手術の普及に向けて、最も大切なのは安全性だと同氏は考えている。心臓血管外科で行う心臓の手術は、他の診療科とは異なり心臓を止めて行わなくてはいけないからだ。安全に心臓を止められる時間は限られているため、da Vinci手術中に万が一トラブルが起きた場合も手を止めて相談する時間はない。安全性を重視するためには、場合によっては「直視下手術や開胸手術に移行するなど適切な判断が求められる」と同氏は指摘する。
肝胆膵外科用のデバイスは不足
肝胆膵外科領域のda Vinci手術は、2018年度の改定では保険収載されなかったものの、海外では年間2000件の肝切除術、年間4000件の膵切除術がda Vinci手術で行われたと報告されているという。
藤田医科大学では2009年から自費診療で109例のda Vinci手術を行ってきた。その結果、「空間が認識しにくい上、肝胆膵領域ではロボットアームの先端に装着する専用鉗子などのデバイスが不足している」ことが明らかになったと藤田医科大学 総合消化器外科の杉岡篤氏は話す。こうした課題を解決した上で、保険収載を目指したい考えだ。
診療科ごとにばらつきはあるものの、保険適用拡大を受けてda Vinci手術は確実に普及し始めている。若手医師に、まずは内視鏡手術やロボット手術を教える時代もそう遠くはないかもしれない。優位性を示すエビデンスの構築や新しい教育体制が求められるだろう。