なぜアイドルのライブで自転車をこぐのか

 仕掛学とは、端的に言えば「行動の選択肢を増やすもの」(松村氏)。いつもの行動とは違う選択肢の行動を用意し、「いつもとは違う行動を、ついやってみたくなるような何らかの仕掛けを置いてあげることが重要なポイント」(同氏)だという。

 仕掛学を利用した事例の一つに「階段」がある。例えば、エレベーターなどを利用せずに階段を登れば、それ自体が良い運動になるわけだが、「健康になるから階段を使いましょう」と言っても、そう簡単に階段を使ってはくれない。そこで考え出された海外事例として、松村氏はピアノのデザインを採用した階段を紹介した。パッと見ただけでピアノと分かる白と黒のカラーリングを採用し、センサーを埋め込むことで階段を踏むと音が出るような仕掛けが施されている。「これなら階段を使うことがついつい楽しくなる。まさに、階段を使いたくなるように仕向けたわけだ」(松村氏)。

 海外におけるスポーツドリンクの自動販売機の事例も紹介した。その自動販売機にはコインを入れる場所がなく、手の汗を計測するセンサーのみを搭載している。センサーに手をかざし、“汗をかいていない”と認識されると「あなたはスポーツドリンクを必要とするほど汗をかいていない」として、ドリンクが出てこない仕組みになっているという。逆に、運動をして汗をかいた状態でセンサーに触れればスポーツドリンクが出てくる。「運動をやれと命令するのではなく、そういった仕組みなら、頑張って運動してみようと思わせるところが上手い事例だ」(松村氏)。

 国内では、とあるアイドルのライブ会場に自転車を複数台設置した事例があるという。熱心なファンは、開演の5時間前から会場に集まり、自転車を交代でこいでいた。なぜなら、ライブで利用する電力は自転車をこいで生み出したエネルギーによって賄われる仕組みとなっていたからだ。

 実際には、ライブ前に貯めた電力だけでは不足だったため、ファンはライブ中もリアルタイムで自転車をこぎながらアイドルの曲を聴くことになったそうだ。自転車をこがなければ電源がなくなり、肝心の曲が聴けなくなるのだから、一生懸命にこぐのは当然の行動となる。「ファンは自分の健康のためとは全く考えていなく、アイドルを応援するために一生懸命こぐ」(松村氏)という仕組みが成り立っているわけだ。