※「新・公民連携最前線」2016年3月9日付の記事より
「日本版CCRC」(生涯活躍のまち)構想を推進する自治体の一つ、近江八幡市は、CCRC基本構想を3月中に取りまとめ予定だ。2月27日に都内で開催されたイベントでその一端を披露、さらに同市の冨士谷市長も加わり、まちづくりの方向性について様々な立場からの意見交換が行われた。
人口約8万2千人、日本最大の湖・琵琶湖のほとりに位置する滋賀県近江八幡市は、三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)の精神で知られる近江商人の発祥の地としても知られる。2015年10月に策定した「近江八幡市まち・ひと・しごと創生総合戦略」の施策の1つとして「安寧のまちづくり(CCRC)」に取り組んでいる。
2016年2月末、東京駅前にある商業施設「KITTE」内のイベントホールにて、この基本構想を東京圏の人たちにアピールしようとフォーラムを開催した。
「老人福祉施設を作るわけではない」
フォーラムでは、近江八幡市安寧のまちづくり構想推進会議の座長を務める東京大学高齢社会総合研究機構機構長・教授の大方潤一郎氏が登壇。2016年3月末までに取りまとめ予定の近江八幡市版CCRC基本構想の方向性について説明した。
都市計画を専門とする大方氏は、「近江八幡市のCCRCは米国の輸入版ではない。市民の皆さんと、移住したいと考える人たちが時間をかけてじっくりと“まちづくり”を練り上げていくべきだ」と述べ、「老人福祉施設を作るわけではない」という基本コンセプトを強調した。
次に大方氏は、公共交通の充実、在宅医療・介護の整備、地域コミュニティへの参入、不動産のリバースモーゲージ、安定した就労環境など、何でも揃う都会からの移住を受け入れる際に必要と考えられる一般的要素を挙げた。そうした中で「近江八幡市は新しい人、そして文化を受け入れる風土があることが見えてきた」と、同市のオープンな風土が移住者たちの支えになるのではないかとの見方を示した。
続けて大方氏は、近江八幡市版CCRC構想におけるまちづくり拠点の空間イメージとして、同市の特徴を生かした5つの住区イメージを示した。
大方氏による近江八幡市の特徴を生かした住区イメージ
1. まちなかの古民家で暮らす
――歴史のある風景がまちに溶け込んでいる
2. レイクサイドの暮らし
――琵琶湖のほとりの素晴らしい生活
3. 静かな水辺で暮らす
――琵琶湖はラムサール条約(湿地の保存に関する国際条約)に登録している。静かなビオトープを抱えている
4. 晴耕雨読の暮らし
――農業も盛ん。自宅菜園の規模を超えて、きちんとした農作業もできる
5. 新世代アーバンビレッジで暮らす
――駅に近い場所は、新世代郊外としての可能性を秘めている。アーバンビレッジ(英国で提唱されたサステナブルな都市づくり)のようなニュータウンを整備して、その場所で生活する
このように様々なエリアの魅力を生かした住区を分散的に開発しつつ、各住区に多目的集会施設を設けることで地域交流とサポートの「ちいさな拠点」とし、「(それら施設が)歩いて暮らせる生活圏の中心になっていけたらいい」(大方氏)と期待を込めた。