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「移住者と一緒に新しいビジネスを」「土地活用の規制緩和が必要」

 次に、冨士谷英正・近江八幡市長も加わってのパネルディスカッション「近江八幡市を『見る』『知る』『学ぶ』 そして『暮らしてみる』」がスタート。近江八幡市に縁のある人たちがパネリストとして参加し、それぞれの立場から近江八幡市の魅力、CCRCを実現するための方策などについて意見を交わした。パネリストのプロフィールは以下の通り。

パネルディスカッションの様子(写真:小口正貴)
パネルディスカッションの様子(写真:小口正貴)
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<パネリスト>
●建築家・建築史家、東京大学名誉教授、工学院大学特任教授 藤森照信氏
2015年、近江八幡市の菓子店舗「ラ コリーナ近江八幡/たねや」における「草屋根」を手がけた。広大な屋根を草でおおった草屋根は各所で大きな話題を呼んだ。
●文筆家・旅行作家 西本梛枝氏
日本各地を旅してきた旅行作家。元近江八幡観光大使であり、過去には認定NPO法人びわ湖トラストの理事も務めた。
●カワサキ代表取締役 川﨑孝雄氏
昭和3年に創業、当地の伝統工芸である木珠(数珠玉)製造業を経営する。2013年度からは公益社団法人びわこビジターズビューロー理事を務める。
●近江八幡市長 冨士谷英正氏
2006年に合併前の近江八幡市長に選出され、旧安土町と合併後の市長選でも当選。新近江八幡市長として現在2期目。2013年からは滋賀県市長会会長も務める。

<モデレーター>
●ピーターD.ピーダーセン氏
デンマーク出身。環境・CSRコンサルティングを手掛けるイースクエア共同創業者。近江八幡市に本拠を置く一般社団法人「NELIS」の共同設立者で、日本に25年在住。この15年間で近江八幡市に100回は足を運んだという。

 ディスカッションでは、近江八幡市が目指すCCRCについての議論に多くの時間が割かれた。モデレーターのピーダーセン氏は、「人口8万2000人の近江八幡市は、大都市より新しい実験をするにはむしろも相応しい規模だ。しかし、日本では“小さな街”と言われ大都市より下に見られる。この規模の街は、私の地元のデンマークでは立派な中堅都市だ。人口の規模ではなく、住民の発想の豊かさこそが大事。発想の斬新さによって、世界の中心にもなり得る」と、今の日本における大都市偏重の都市イメージに疑問を呈することから議論をスタートさせた。

 近江八幡市が目指すのは、多世代型のコミュニティである。冨士谷市長は、交通弱者のための13路線のマイクロバス運行、105人のドクターを擁する地域中核病院の運営、震災ほか有事の際の安全施設など、既に整っているインフラをベースに「あそこならば住んでみたいと思える場所を作らなくてはならないという思いを念頭に取り組んでいる」と語った。

近江八幡市長の冨士谷英正氏(写真:小口正貴)
近江八幡市長の冨士谷英正氏(写真:小口正貴)
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 川﨑氏は近江八幡市民かつ地元事業者としての立場から、あくまで個人の意見としながらも「都会から、自分の足跡を残せるような人生を楽しんでみたい、第二の人生を楽しんでみたいと思われる人たちが移住してきたら、一緒になって何か新しいビジネスを展開することができるかもしれない」と期待を寄せた。都会で培った移住者のスキルや人脈を“見える化”する仕組みをつくり、「我々のような企業や行政が介在して上手くマッチングできれば理想。ライフワークを求めて移り住むならば、大きな可能性のある土地だ」(川﨑氏)と歓迎の意を示した。

 さらに、「今後どのようにして輝かしい長寿社会を作っていくべきか」をテーマに意見交換が進んだ。藤森氏は、自身の経験になぞらえながら「歳を重ねるにつれて女性の力強さを再認識している。これからの長寿社会は、ますます女性が中心となるべきだと感じているが、今の日本の社会構造ではそうした仕組みができていない」と問題提起した。

 この意見にはピーダーセン氏も「CCRCのような新しい計画を進める際には、男性の視点だけで考えていてはダメ。やはり女性の視点を色濃く反映させるべき」と同意。女性の立場から意見を求められた西本氏は、自分の周囲にいるアクティブな人に性別は関係ないとし、そうしたアクティブな人たちに共通するのは「常に生産者でいること、そしてとりあえずやってみようという気持ちを持っていること」と語った。

 会場からの質疑も活発なやりとりがなされた。まちづくりを進めるための規制緩和について冨士谷市長は、近江八幡市には市街化調整区域が多く「自由にできる土地が17%しかない。地方の特色を活かした地方創生を推進するために、特に土地活用に関する部分について国は規制緩和を考えてほしい」と訴えた。

 また、近江八幡市出身で埼玉県に40年近く住んでいるという男性は、「埼玉滋賀県人会のサポートをしている。今回のCCRCのような話題を提供してもらえると、外からも応援しやすくなる。少しでも足を運ぶきっかけができれば、近江八幡市のファンも増えるだろう」と話し、これを受けピーダーセン氏は「日本全国にある県人会が1つのエンジンになり、もう一度生まれたまちに戻ろうという動きが大きくなれば面白い」と答えた。

 そして最後にピーダーセン氏は「今の日本は、皆で支え合う長屋的社会から、社会が面倒を見るモデルへの過渡期。この時期にできる1つの試みが日本版CCRCであり、ここから何か面白いことが生まれるのではないだろうか」と結んだ。