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医師からの見方は?

髙谷氏:医師会の立場から健康経営について教えてほしい。

今村氏:全てのステークホルダーが一緒になって取り組もうという動きは、ここ1~2年で急激に進んだという印象。政策レベルでは方向性も見え、合意形成もできてきた。しかし、現場はどうか。トップダウンで推進しようとしても、ボトムがしっかり機能しない限りは進まない。

日本医師会の今村氏
日本医師会の今村氏
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 地域の医師会員は20万人ぐらい存在する。今現在、健康経営の動きが起きていることをどれだけの現場の医師、産業医が理解しているのか――まだ不安な面も多い。例えば産業医についても大企業に専属の医師と、嘱託で請け負っている医師では心構えも違えば担当する内容も異なる。つまり、地域医療をしながらパートタイムで産業医の仕事をする医師に、大企業の産業医のようなアプローチをしろというのは難しい。現在は厚労省の中に「産業医制度の在り方に関する検討会」が設けられ、課題や役割を議論している。

 一方、働いている人たちから見て、産業医はそこまで近い存在なのだろうか? 病気になったとき、まずは上司や同僚に相談する。実際、産業保険スタッフに対する相談は非常に少ない。より相談しやすい仕組みや理解を進めていかなくてはならない。産業医に対する研修会などで理解を進めるためのプログラムを入れていきたい。

 地域の医師、地域の中小企業の方々にはとりあえずモデルケースで取り組んでもらい、そこから広く横展開していくような啓発の場を持ちたいと考えている。実は糖尿病については日本糖尿病対策推進会議という大きな枠組みを設けており、47都道府県の担当役員が集まって糖尿病の重症介護、特に人工透析を防ごうとしている。こうしたさまざまな機会を通じて、かかりつけ医にも周知していきたいが、現場で機能するまでには恐らく数年以上かかるだろう。長期のスパンで臨むべきだ。

髙谷氏:同じ医師の立場で、山本先生はどのような認識を持っているか。

山本氏:私も産業医の資格を持っている。しかし、企業の産業医になるのではなく、健保などの支援という関わり方。そういった立場で多くの産業医とお会いすると、確実に意識の変化を感じ取れる。「こういう仕事をしたかった。産業医って面白いじゃないか」という人たちが出てきている。そして、健保の方たちも楽しさに目覚めつつある。

ミナケアの山本氏
ミナケアの山本氏
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 今村先生がおっしゃったように、そうでない環境もまだまだある。とはいえ、各地域の医師会の先生たちの中には、「今までと同じことばかりやっていたのでは物事が良くならない、率先して新しいことに取り組まなくてはならない」という人たちもいる。そうした先進例がどんどん前に出てくることで、取り組むべき方向性が見えてくる。