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国をまたいでデータシェア

 次世代シーケンサーの登場とその進化により、ゲノム解析のコストは劇的に低減している。井元氏は米国の報道記事を示しつつ、全ゲノムシーケンスのコストが全エキソームシーケンスと同等にまで下がってきたことを指摘した。全エキソームシーケンスは全ゲノムのうちの3%ほどの遺伝子領域をシーケンスするもので、従来はコスト面での優位性から利用されることが多かった。両者のコストが比肩するようになったことで「全ゲノムシーケンスの時代が来たと実感している」(井元氏)。

 全ゲノムシーケンスが有効に機能した例として同氏は、家族性大腸腺腫症と呼ぶ遺伝性疾患の患者の事例を挙げた。全エキソームシーケンスでは原因と考えられる変異が見つからなかったが、全ゲノムシーケンスを行うことで、APCと呼ぶ遺伝子のプロモーター領域の欠損を同定できたという。

 全ゲノムシーケンスに関しては、国をまたいでのデータシェアリングの動きが始まっている。国際がんゲノムコンソーシアム(International Cancer Genome Consortium)が進めている「PCAWG(Pan-Cancer Analysis of Whole Genomes)」と呼ぶプロジェクトがそれだ。国をまたぐ複数のデータセンターを連携させ、仮想マシンによる同一環境下で全ゲノム解析を行う。目下、世界10拠点のデータセンターを接続しており、ここには東京大学医科学研究所が参画し、主にがん免疫の解析を担当している。

 井元氏はこうした取り組みの先にある「ゲノム解析の未来像」として、クラウド上にゲノムデータベースや人工知能などの解析エンジン、解析ツールなどがそろい、個々の研究者がデータをローカルにダウンロードすることなく解析が行える姿を提示した。企業や医療機関はゲノム解析をこのプラットフォームに委託することで、自らシーケンスを行うよりも安価に、必要とするゲノム解析データを入手できる。これを創薬や治療の最適化に生かしていく仕組みだ。こうした仕組みを構築する上では、個人情報保護法との兼ね合いも重要な課題になると井元氏は話した。