急速な少子高齢化や医療を取り巻く環境が変化していく中、2035年を見据えた保健医療政策のビジョンを示すために厚生労働省が設置したプロジェクト「保健医療2035」。2015年6月、「保健医療2035提言書」を公表し、具体的な方針が示された。
2015年10月30日に日本医療機器産業連合会が開催した平成27年度第2回講演会には、民間の立場から保健医療2035提言書の策定に関わったミナケア 代表取締役の山本雄士氏が登壇し、「保健医療2035~健康先進国に向けた医療イノベーション~」の題目で講演した(山本氏のインタビュー記事:“病院の外”から医療を変える)。
山本氏はまず、「1995年の時点で、2015年にここまでインターネットやスマートフォンが普及するとは予想できなかった」と述べ、それら予測不能な要素を除いたうえで「保健医療の仕組みとして満たす、それもできるかぎり普遍的な価値としてあるべき姿を目指すことにした」と提言書の大枠について説明した。
そこで鍵になるのが、パラダイムシフト(価値観の変化)である。提言書で示されたその内訳は、1. 量の拡大から質の改善へ、2. インプット中心から患者にとっての価値中心へ、3. 行政による規制から当事者による規律へ、4. キュア中心からケア中心へ、5. 発散から統合へ、の5つである。
また、2035年に向けた保健医療が達成すべき3つのビジョンとして示したのが「リーン・ヘルスケア」「ライフ・デザイン」「グローバル・ヘルス・リーダー」だ。リーン・ヘルスケアは価値の高いサービスを低コストで提供すること、ライフ・デザインは個々人が自ら健康の増進・維持に主体的に関与し、必要なサービスを的確な助言のもとに受けられる仕組みを確立すること、グローバル・ヘルス・リーダーは国際新興・再興感染症の封じ込めや災害時の支援などに貢献する機能を強化し、「世界の健康危機管理官」としての地位を確立することを示す。
これら保健医療2035提言書の内容を紹介した後、医療のイノベーションへと話は進んだ。山本氏は1999年に東大医学部を卒業後、東大付属病院や都立病院での医師経験を経て、2007年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した経歴を持つ。マイケル・ポーター氏による「医療は競争が激しい割に、その本質が間違っている。健康状態を改善した実績で競争させなくてはならない」との言葉を借りながら、次のように語った。
「これだけ予防に関する知見があり、慢性疾患を医療機関外で管理・監視するようなデバイスが育ってきたにもかかわらず、いまだに保健医療の中心は診断と疾病治療であり、医療機関で行なうものとの発想になっている」(山本氏)。