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本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第86巻、第12号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

 近年、伸縮可能な電子デバイスの研究が盛んに行われており、重要な要素の1つとして高伸縮性と高導電性を有する電気配線が求められている。これまでの研究は材料や形状を工夫するアプローチが多いが、我々は導電性のよい金属の電気配線を用いてそこに自己修復という機能を付与するというアプローチで研究を行っている。具体的には、配線の断線により断線部にのみ生じた電界が金属ナノ粒子に及ぼす誘電泳動力により、断線部を金属ナノ粒子によって架橋し、断線を修復するという手法である。本稿では、自己修復型金属配線の原理から、自己修復型金属配線を用いた伸縮デバイス応用まで紹介する。

 近年、曲げられるだけでなく、伸縮可能な電子デバイスの研究が盛んに行われている1~12)。「フレキシブル電子デバイス」と表現した場合には、屈曲性(bendability)と伸縮性(stretchability)のどちらも指すことがあるが、電子デバイスを実現しようとする場合には、屈曲性と伸縮性は大きく異なる。材料力学的な観点から考えると、図1(a)に示すように、曲げ変形においては、曲げの内側では圧縮ひずみが曲げの外側では引張ひずみが生じるが、圧縮ひずみも引張ひずみも生じない中立面がデバイス内に存在する。そのため、中立面近傍に素子を配置するか、デバイス全体を薄くすれば、伸縮性をもたない素子を用いても屈曲性を有する電子デバイスを実現することができる。一方で、図1(b)に示すように、伸縮変形では中立面のような場所は存在せず、デバイス全体に引張ひずみもしくは圧縮ひずみが生じることとなる。そのため、曲げ変形の中立面のような自明な解は存在せず、電子デバイス実現において伸縮性は屈曲性に比べ困難な課題であるといえる。

図1 電子デバイス実現における曲げ変形と伸縮変形の違い。
図1 電子デバイス実現における曲げ変形と伸縮変形の違い。
(a)曲げ変形においては、曲げの内側には圧縮ひずみが曲げの外側には引張ひずみが生じるが、圧縮ひずみも引張ひずみも生じない中立面が存在する。(b)伸縮変形では、デバイス全体に引張ひずみまたは圧縮ひずみが生じる。
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 伸縮性を有する電気配線は、伸縮デバイスにおいて特に重要な要素の1つとしてさまざまな研究がなされている。これはセンサなどの素子が伸縮性をもたない場合でも、伸縮性を有する電気配線で素子をつなぐことで、デバイス全体としては伸縮性を有する電子デバイスを実現することができるためである。現在、伸縮性を有する電気配線としては、導電性をもたないエラストマにカーボンナノチューブや金属ナノワイヤ、金属フレークを混ぜるといった「材料工夫」による導電性エラストマ配線13~18)や、伸縮基板上に湾曲させた波状の金属配線を配置するといった「形状工夫」による伸縮する金属配線19~21)がある。伸縮性を有する電気配線には、高い伸縮性と高い導電性が求められる。導電性エラストマの「材料工夫」のアプローチは、高伸縮性は得やすいが高導電性を得るのは難しい。そのため、高い導電性を目指した研究が行われており、現在では400%伸ばした場合でも105S/mに近い導電率を得ている報告がある18)

 しかしながら、例えば銅の導電率は5.9×107S/mと107S/mオーダであり、金属と比較すると導電性では劣ってしまう。一方、金属配線の「形状工夫」のアプローチは、107S/mオーダの高導電率は得やすいが、繰り返しや過度な伸縮変形により破断が生じるなど伸縮耐性を得ることが難しい。そこで我々は、「材料工夫」とも「形状工夫」とも異なるアプローチとして、「機能付与」というアプローチを行った22~24)。これは、形状工夫された金属配線に自己修復機能を付与することにより、高い導電性に加えて高い伸縮性を兼ね備えた電気配線の実現を目指したものである。本稿において「自己修復」とは、配線としての機能(導電性)が自動的に修復されることを意味しており、配線の断線の位置や大きさを知らずとも配線に電圧を印加するだけで断線を修復する自己診断能と、断線部のみを修復し過度な修復や不要な修復は行わない選択的修復能の両方を備えることと定義している。