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 ここで、スピン回転結合由来の有効磁場の大きさを見積もってみよう。角速度Ωを電子に対する有効磁場に換算すると、Ω=10kHzであっても、30nT程度という極めて微弱な磁場でしかなく、地磁気の変動幅と同程度である。一方で10kHzという回転運動が生じている系では、回転軸から1mm離れた場所に働く遠心力は白色矮星表面における重力場と同程度の105Gに及ぶ。このため、常磁性体のような磁化率の小さい物質中でバーネット効果を測定するには、強力な磁気遮蔽を行い、遠心力によって破壊されない強固な回転体を使う必要がある。最近になって常磁性状態の単体ガドリニウムでバーネット効果が観測された9)。これは、常磁性金属中の電子スピンに対してスピン回転結合が存在することを示した最初の実験である。

 またスピン回転結合は回転体中の電子スピンだけでなく、核スピンにも作用することが核磁気共鳴実験によって明らかにされた10〜13)。角速度Ωで回転する物質中の核スピンに働く有効磁場は、核子の磁気回転比γNを用いてΩ/γNで表せる。磁気回転比は電子スピンよりも核スピンのほうが3桁ほど大きいため、電子よりも核子が感じる有効磁場も3桁大きい。実際、kHオーダの角速度で回転させながら核磁気共鳴実験を行うことによって、原子核のスピン角運動量と力学回転との間のスピン回転結合が直接観測された。

 このように、スピン回転結合はさまざまな回転体中で普遍的に現れる相互作用である。これらの実験結果は、スピン回転結合という普遍的な相互作用を通じて回転運動によってスピン偏極方向を制御できることを示している。それでは、次にスピン回転結合を通じて回転運動によるスピン流生成が可能かを見ていこう。

スピン回転結合を用いたスピン流生成

 空間的に変化する磁場中をスピンが通過するとスピンは磁場勾配に沿って力を受け、スピンの符号によって作用する力の方向は反転する。これはシュテルン・ゲルラッハ効果として知られ、その起源はゼーマン相互作用Hz=S・γΒ の勾配を取って得られるスピン依存力Fz=−S・γ∇Β である。ゼーマン相互作用とスピン回転結合のアナロジーから、空間的に変化する回転の生じている物質中をスピンが通過すると、FSRC=S・∇Ω によって回転勾配に沿った方向に対してアップスピンとダウンスピンが互いに逆方向に進む、すなわちスピン流が生成されることが予想できる。これは力学版シュテルン・ゲルラッハ効果によるスピン流生成法といえる(図5)。

図5 力学版シュテルン・ゲルラッハ効果。渦度勾配に沿ってアップスピンとダウンスピンが互いに逆向きに進み、スピン流が生成される。
図5 力学版シュテルン・ゲルラッハ効果。渦度勾配に沿ってアップスピンとダウンスピンが互いに逆向きに進み、スピン流が生成される。