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 回転勾配を作るためには弾性運動や流体運動を用いるとよい。弾性体の格子や流体素片の速度場をvとするとき、局所回転運動の角速度Ω は渦度Ω=∇×vを用いてΩ=Ω/2と表すことができ、スピン回転結合はHSRC=−S・Ω/2となる。このとき、渦度勾配が有限となるような弾性運動や流体運動として以下の例が考えられる。

 例えば金属に音波を注入して表面弾性波を発生させると、金属表面付近で渦度が最大となり、深さ方向に減衰するような渦度勾配が生じる。したがって、表面に垂直方向にスピン流が生成されることが理論的に示される14,15)(図6)。同様にカーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT)のねじれ振動モードを用いたスピン流生成法も提案されている16)。この機構は純粋に力学的な効果であり、磁性やスピン軌道相互作用を必要としないため、アルミニウム、銅、CNTのようなスピン軌道相互作用の小さい非磁性材料をスピン流生成源として利用可能であることを示唆している。

図6 表面弾性波によるスピン流生成。表面弾性波がx方向に伝搬するとき、y方向に渦度勾配が生じる。この渦度勾配に沿ってスピン流が生成される。
図6 表面弾性波によるスピン流生成。表面弾性波がx方向に伝搬するとき、y方向に渦度勾配が生じる。この渦度勾配に沿ってスピン流が生成される。
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スピン流体発電

 水銀やガリウム合金のような液体金属の流体運動を用いることでもスピン流生成が可能である。特に細管に液体金属を流すと、細管の中心付近では流速分布の変化は少ないが、管壁付近では流速は急激に小さくなり、動径方向に渦度勾配が生じ、スピン流が生成される。それでは、このスピン流はどのように観測できるだろうか。

 スピン流生成を確認する実験手法としてよく利用されるのが逆スピンホール効果による電気測定である。プラチナのようなスピン軌道相互作用の大きい物質にスピン流を注入すると、スピン依存する散乱過程からスピン流の伝搬方向と直交する方向に電圧が生じる。これを逆スピンホール効果という17)

 液体の水銀やガリウム合金は、比較的原子番号の大きな元素で構成されており、スピン軌道相互作用を通じた逆スピンホール効果が存在する。細管に流した液体金属中で動径方向に生成したスピン流は、液体金属中のスピン軌道相互作用によって、液体金属流に平行な方向の電圧に変換される。この管方向の電圧の検出がスピン流生成の証拠である(図7)。

図7 スピン流体発電実験。石英管に水銀やガリウム合金のような液体金属を封入し圧力をかけて流体運動を作り、管方向に生じる電圧を測定する。
図7 スピン流体発電実験。石英管に水銀やガリウム合金のような液体金属を封入し圧力をかけて流体運動を作り、管方向に生じる電圧を測定する。
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