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本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第86巻、第3号に掲載された「酵素駆動の皮膚通電デバイス」の抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

酵素を電極触媒に用いるバイオ電池は、糖やアルコールなど安全で豊富な化学エネルギーから直接発電する電源であり、有機材料のみで構成できる優れた生体・環境調和性が永く興味を集めてきた。そして近年、電極のナノ構造制御による出力向上を契機に、実用化に向けた研究開発が加速している。本稿では、カーボンナノチューブ(CNT)と酵素の精密複合化による高活性な伸縮性酵素電極の作製と、皮膚通電デバイスへの応用を紹介する。皮膚内への通電は、イオントフォレシスによって経皮薬物浸透を促進する。皮膚表面への通電は、表皮細胞の電気走性を刺激し、創傷治癒を促進する。これらの通電効果を酵素反応によるバイオ発電で引き起こし、有機物のみで構成された安全・安価な使い捨てデバイスの実現を目指している。

 酵素を電極触媒に用いるバイオ電池は、糖やアルコールなど安全で豊富な化学エネルギーから直接発電する電源であり、有機材料のみで構成できる優れた生体・環境調和性が最大の魅力である1、2)。一方で、有機材料(特に酵素)であるがゆえに稼動寿命が限られるという弱点もあり、安全・安価な使い捨て電源としての利用がまずは有望と考えられる。

 50年以上の歴史を有する酵素バイオ電池が近年、再注目されている理由は、活性炭やカーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT)などを修飾して実効比表面積を増大させたナノ構造化電極の利用によってmA(mW)レベルの性能が得られるようになったためである1、2)。我々も、CNTフィルム内に酵素を配列固定する技術によって酵素利用率100%の電極を実現し、ブドウ粒内の糖濃度分布を測るなど、局所バイオ計測への有効性を示しており、これについては以前、本誌で紹介した3)。本稿では、皮膚に貼付して用いる通電デバイスへのバイオ電池の搭載に関する研究を中心に紹介する。皮膚上は酵素反応に適した温度環境である反面、複雑な表面形状や動きに対応する「伸縮性」が必要になる。しかし、上記ナノ構造体は一般にもろく、伸縮性との両立は容易でない。そこで我々は、まず伸縮性のmA級酵素電極を開発し、その応用によって、皮膚上でも安定に動作する伸縮性のバイオ発電デバイスを実現した。皮膚内への通電による薬物浸透の促進(経皮イオントフォレシス)と、皮膚表面への通電による創傷治癒(表皮細胞の電気走性刺激)を紹介する(図1)。後者の研究は、皮膚が本来有する「表皮電位」に関連するが、我々はこれを局所計測する技術を最近編み出したので、併せて紹介する。

図1 酵素を電極触媒とするバイオ電池と皮膚デバイスへの応用。
図1 酵素を電極触媒とするバイオ電池と皮膚デバイスへの応用。
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