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バイオ発電による経皮投薬8)

 皮膚表面から薬物を投与する「経皮投薬」は、必要箇所へ簡便に薬物が届くメリットがあり、鎮痛剤を浸透させる湿布(シップ)や、禁煙補助薬のニコチンパッチなどが身近な実例である。そして、皮膚への薬物浸透が数十μAの微弱電流で大幅に加速される効果が以前から知られており、局所麻酔剤の高速投与、および医療機関で行う美肌成分や発毛・育毛成分の浸透促進などに広く利用されている。これは、微弱電流に伴って生じる組織液の流れに乗った薬物浸透の結果であり、イオントフォレシスと呼ばれる現象である。しかし、電源や配線から成る装置が必要であるため、家庭での個人使用には適さない。小型電池を電極パッドに一体化する試みが進んでいるが、有害物質や金属を含む通常の「電池」を用いる限り、重厚で使用後の処理にも配慮を要する。バイオ電池によって、皮膚パッチに自ら発電する能力を搭載できれば、外部電源が不要となり、家庭用の使い捨てセルフケア用品として普及する可能性が生まれる。

 図4(a)のように、バイオアノードとカソードを、ゴム製の抵抗体PEDOT-PU(ウレタンゴムと導電性高分子の複合体)9、10)で連結し、フレームとともにO2透過性のメディカルテープに貼り付けた8)。これを、フルクトースおよび鎮痛剤などを含むハイドロゲルシートに組み合わせて皮膚へ貼り付けると、皮膚を通してイオン電流が流れる仕組みが得られる。電極や内部抵抗が伸縮性を有するため、図4(b)に示すように、体表で最も大きく動く関節部で発電しても安定である(出力電圧をモニタした)。

図4 (a)経皮投薬パッチの構造、(b)屈曲による出力変化、(c)ブタ切除皮膚を用いた発電安定性の確認とリドカイン(鎮痛剤)の浸透実験。
図4 (a)経皮投薬パッチの構造、(b)屈曲による出力変化、(c)ブタ切除皮膚を用いた発電安定性の確認とリドカイン(鎮痛剤)の浸透実験。
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 ブタ切除皮膚に貼り付けた状態でパッチの発電性能を評価した結果が図4(c)である。搭載する内部抵抗(導電性ゴム)の抵抗値に応じた経皮電流が6時間以上持続するため、就寝時の利用などが可能だといえる。リドカイン(鎮痛剤)を用いて、バイオ電流パッチによる浸透促進効果の検証も行った。リドカインを含むハイドロゲルシートを用いて、ブタ切除皮膚に1時間貼付した後、皮膚の断面を観察したところ、バイオ電流がない場合(単に貼り付けた場合)に比べて薬剤浸透の促進が明らかであった。

 生体・環境に優しい有機材料で作られたバイオ電流パッチは、軽く・薄く・軟らかく、そして使用後はそのままゴミ箱に捨てることができる。微弱電流で生じる皮下組織液の流れは、それ自体がマッサージ効果やシワ取り効果を有するので、バイオ電流パッチの応用は経皮投薬に限らず多様であり、セルフケア用品としての普及を目指して企業との実用化研究を進めている。