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大画面フレキシブルディスプレイの要素技術

 大画面のフレキシブルディスプレイを実現するには、耐熱性の低いプラスチック基板上に作製するプロセス技術に加え、ディスプレイの大画面・高精細化などの課題を同時に解決する必要がある。そのため、ディスプレイを構成する基板、有機EL、TFTについてさまざまな要素技術開発が求められる。主な要素技術と関連するキーワードを表1に示す。本章では、各要素技術の概要と開発動向について述べる。

表1 SHV 用大画面フレキシブルディスプレイの主な要素技術。
表1 SHV 用大画面フレキシブルディスプレイの主な要素技術。
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プラスチック基板とディスプレイ作製方法

 基板材料として各種のプラスチック素材が検討されているが、高い光透過率、低い線膨張率、表面平坦(へいたん)性、耐熱性、耐薬品性、水蒸気バリヤ性など多くの性能が要求される。光透過率、平坦性、耐溶剤性に優れた素材としてポリエチレンナフタレート(PEN)が挙げられる。しかし、耐熱温度が200℃程度であるため、高温プロセスを必要とする場合には一般にポリイミドなど高耐熱性基板が使用される。特に、TFTの作製プロセスから300℃以上の耐熱性が必要な場合には、着色したポリイミドフィルムが用いられることが多い。この場合、図3に示すような、ボトムエミッション構造(プラスチック基板側から有機ELの光を取り出す構造)を適用することが難しく、下部に金属光沢をもった反射電極を、上部に光を取り出す透明電極を配置するトップエミッション構造が必要となり、より複雑なプロセスが要求される。

 ただし、トップエミッション構造には、TFTとOLEDの積層構造とすることにより、開口面積を大きくとれるという利点もある。プロセスの簡易なボトムエミッション構造とするための透明なポリイミド基板については、300℃前後の耐熱性フィルムであれば存在する。その中でも、塗布形成可能なワニス型の透明ポリイミドは、スピンコート法などで薄膜形成が容易であり、超フレキシブル化に向けた検討が進められている7)

 次に、フレキシブル有機ELディスプレイの作製方法について述べる。直接法は、TFTを含む画素回路と有機ELをプラスチック基板上に直接形成する方法である。図4(a)は、既存のガラス基板ベースの製造ラインを用いることができるように、ガラス基板上に接着層を介してプラスチック基板を貼り合わせ、その上に画素回路と有機ELを作製したのちガラス基板から剥離する方法である。ただし、プラスチック基板に加えて接着層についても、耐熱性、耐薬品性、剥離強度などを考慮する必要があり、その材料選定は慎重に行う必要がある。

 一方、図4(b)は前述のポリイミドなどをガラス基板上に塗布形成する方法であり、厚さ20μm程度の非常に薄いフレキシブルディスプレイの作製も可能である7)。接着層が不要という利点もあるが、ガラス基板からのフィルム剥離強度が比較的強いという課題があり、レーザー照射による物理的な剥離手法が検討されている6,8)。図4(c)は転写法と呼ばれる方法で、ガラス基板上に画素回路と有機ELを作製したのち、ガラス基板から剥離およびプラスチック基板の貼り合わせを行う方法である9)。ガラス基板上に作製するので高温プロセスを使用でき、高性能な画素回路が実現可能である。最後に転写するのでフィルムの種類を選ばないという大きな利点があるが、図4(b)と同様に剥離層の選定が難しいという課題がある。

図4 フレキシブル有機ELディスプレイの作製方法。
図4 フレキシブル有機ELディスプレイの作製方法。
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 直接法、転写法とも既存の真空成膜とフォトリソグラフィプロセスをベースとしている。これらは、真空の製造装置やクリーンルームなど高価な製造設備と、その運用のための大きなエネルギーが必要であり、コスト上昇の一因になっている。これに対し、液状の材料を常温常圧中で基板に塗布して画素の部材をパターン形成する技術、すなわち印刷技術でディスプレイを作製できれば、大がかりな製造設備を必要とせず、低コスト化、量産化、大面積化に有利と考えられる。しかし、各方面で研究が進められているものの、ディスプレイ用の高精度な印刷技術はまだ確立されていない。もしこれが確立されれば、さらに進んだ技術として、柔軟なプラスチック基板を巻き取りながら連続的に加工してディスプレイを作製する図4(d)のロールツーロール法の確立も期待できる。この方法は、将来の理想的なフレキシブルディスプレイ作製法の1つとして期待されている。