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――医師としての現在の仕事について、お聞かせください。

 初期研修を終え、2016年に慶応大医学部 精神・神経科の研究室(領域横断イノベーション精神医学研究室)に入りました。予防というテーマに関心が向いた結果、それを生かせる余地の大きい疾患領域として精神科・内科に魅力を感じたんです。

 研究室では岸本(泰士郎)先生をリーダーとするプロジェクトで、AIを活用した疾患診断に関する研究に取り組んでいます(関連記事3)。AIに加えてウエアラブル端末なども活用し、運動や睡眠状態を含む生体データを取得することで、精神科・内科の疾患診断に生かそうという試みです。ビッグデータやIoT、AIといったキーワードを耳にした時分に、こういうことができるのではないかと想像したコンセプト。今は研究という形でそこに向き合っています。

 並行して2016年5月に、ビジネスパーソン向けのクリニックを立ち上げました。夜間診療専門のクリニックで、診療時間は平日18時から22時。院長として、診察日を含め週に2~3日は足を運んでいます。

 学部時代に、医療が届かない人達への医療提供に関心を持ったとお話ししました。都会で働くビジネスパーソンは、地域医療とは異なる側面、つまり地理的な制約ではなく時間的な制約から医療の届かない人達です。昼間は仕事で忙しく、通院時間を確保することが難しい。そんな人達にも医療を届けたいと考え、このクリニックを立ち上げました。

 クリニックの中心となるコンセプトは予防です。スマートフォンから診察を予約できるようにするなどITも活用しつつ、生活習慣病の重症化予防などに重点を置いた医療を提供しています。

――臨床の現場に立った今、「医療×IT」のこれからの可能性をどのように見ていますか。

 医療現場では、これまで積み重ねられてきた蓄積というものが非常に大きい。日々そう実感させられています。もちろん、安全性が厳しく問われる現場でもある。ですからITの活用については、大きな可能性がある一方でハードルも少なくないと感じています。

 遠隔診療を例にとりましょう。この仕組みを導入することが、患者や医療従事者に本当に利益をもたらすのか、つまり医療機関のオペレーションや収益性、安全性などの観点からどのように評価できるのか。クリニックの運営に携わる立場からは、それをきちんと見極めなくてはなりません。

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 診療報酬が付いていくのかどうかといったことを含め、社会全体でどのようなコンセンサスが形成されていくのか。新しいテクノロジーを医療現場で活用するに当たっては、技術的側面だけでなく、そうした制度や規制面を含むいくつものピースが複雑に絡み合う。時間がかかっても、それを1つずつ解きほぐしていく粘り強さが求められるのではないでしょうか。

 「誰もが、最後の瞬間まで健康で文化的に生きられる世の中を作る」。我々のクリニックはこんな理念を掲げています。臨床、経営、そして研究。その時々で実現手段は変わるかもしれませんが、このテーマを追求したいという思いはこれからも変わらないでしょう。

 本当に求められている“医療の価値”とは何か。それを実現するにはどのような手段が必要か。日々患者と向き合いながらそれを考え続けることが、自分のこれからの仕事だと考えています。

■変更履歴
記事初出時の1ページ目のサブタイトルと写真の田澤氏の肩書き、および6ページ目第3段落の記載の一部を改めました。