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――それでも、獣医師への道を突き進むことにはならなかった。

 獣医学科なので、就職する学生の半分はペットの医師、半分は公務員なんかになります。でも自分は、どちらでもない気がしていた。絵にかかわる仕事をしたいという気持ちが、ずっと消えなかったんです。

 授業では解剖学なんかを勉強するんですけど、ノートに絵を描きますよね。自分が理解するための解剖図を。でも、部位の名前とか機能を覚えることよりも、絵を描くことの方につい力が入ってしまう。やたらと精密に描き込んだり、絵にこりすぎちゃうんです。

 だから成績は良くなかったし、授業もサボってばかりいました。小樽なんかに行って、釣りをしたりするのが好きで。解剖実習と称して、釣った魚を自分でさばいて(笑)。

獣医学生時代のノート
獣医学生時代のノート
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 それでもどうにか6年間の課程を終えて、獣医師の国家資格を取りました。でも、ペットの医師になるつもりはやっぱりない。かといって、絵の専門職に就けるわけでもなかった。教授の紹介などもあって、地元の兵庫県にある医療機器の開発施設に就職しました。

 就職先は、手術のトレーニングや医療機器の開発・評価の支援、再生医療の研究などを担う施設。私に与えられた仕事は、主に実験や医師のサポートをすることでした。人を対象とする医療との接点が、ここから始まったんです。

 ハードだけど、楽しい毎日でした。最先端の医療技術を目の当たりにできることが、すごく魅力的だった。絵が得意だったことも役に立ったんです。手術や実験に関係する骨格標本なんかを、私が描いて医師に見せる。それがすごく助かるって感謝されたりしました。