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――日本の医療制度や産業政策の観点からは、AI活用にはどのような意味があるでしょうか。

 日本の国民皆保険制度を維持していくためにも、AIが必要ではないかと思っています。医療費は高騰しており、最先端の医療技術を皆保険制度と両立させていくことは難しい状況にあります。例えば、最近は進行肺がんの治療に免疫チェックポイント阻害薬をしばしば使いますが、まだ対象患者を十分に絞れていません。このことは医療費の増大にもつながります。AIを使って治療効果や副作用を精度良く予測し、患者を適切に選択できるようになれば、こうした事態を避けられるわけです。

 批判もありますが、日本の医療は素晴らしいと私は感じていますし、それを支えているのは皆保険制度です。私は米国で暮らした経験があるのですが、病院で診察を受けるだけで数百米ドルかかったことがあります。富裕層だけが恩恵を受けるのではなく、国民が広く恩恵にあずかれる日本の医療はやはり優れていると思う。その良さを維持していくためにも、AIが必要ではないでしょうか。

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 産業政策の観点から言えば、日本の国際競争力を高める上で、AIの医療応用という競争の激しい領域で日本のプレゼンスを高めることは重要だと思うのです。第4次産業革命と呼ばれる時代にあって、AIの医療応用はその重要な分野の一つ。ここで出遅れることは、日本の利益を大きく損ねるでしょう。世界トップを狙うべきだと思います。

 日本には質の高い医療データが豊富にありますし、内視鏡技術などにも長けています。優れたロボット技術もあって、ロボットにAIを搭載し、ヒューマンエラーなく臨床検査をできるようにする技術の開発なども進められています。こうした強みを生かせば、AIの医療応用の中でも特に洗練された技術が求められる領域で、日本は世界をリードできるのではないかと思います。

 逆に、何も手を打たなければ世界的な競争の中で淘汰されてしまう。米Google社や米Facebook社などの企業が、やがてこの領域でも大きな存在感を持つ可能性だってあるでしょう。日本は1980年代に半導体の分野で世界首位に立ちましたが、現在の電機業界は世界の競争の中では苦しい状況にあります。医療についても、我々の後に続く世代のことを考えると、AI活用で後れを取るわけにはいかないのです。