ロボットの動作を支える重要部品である減速機(トランスミッション)。モータで動くあらゆるロボットに搭載され、駆動軸のトルクを増大させる役割を果たす。
そんな減速機に今、数十年ぶりの大きな革新が起きようとしている。ロボット向け精密減速機大手のハーモニック・ドライブ・システムズが米国の研究機関SRI International社と全く新しい機構の減速機を共同開発したのだ。
ハーモニック・ドライブ・システムズは、ロボット技術者であれば知らぬ者はいない、精密減速機分野で高いブランド力を持つ企業だ。金属のたわみ(弾性変形)をあえて利用することで、歯車同士の遊びとなるバックラッシをゼロにした「波動歯車減速機」の最大手企業である。遊びがなく精密な位置決め制御が可能となることから、産業用ロボットの手先3軸で多数採用されているほか注1)、ASIMOをはじめとするヒューマノイドロボットなどでは圧倒的なシェアを持つ。ロボット向け減速機を知り尽くした企業が新規に手掛ける減速機であることから、技術者の間では注目を集めつつある。
ロボも“省エネ”の時代へ
減速機は非常に長い歴史を持つが、今回、両社が開発した減速機は従来、全く提案されてこなかったタイプの機構である。SRIのロボット部門の研究者であるAlexander Kernbaum氏(Senior Research Engineer)が2015年初頭に原理を考案し、その後、2015年11月からハーモニック・ドライブ・システムズと共同開発をスタート。現在、製品化に向けて両社で試作や評価などを続けている段階だ。
ハーモニック・ドライブ・システムズ 執行役員で最高技術責任者の清澤芳秀氏は「減速機のプロとして“新型”と称する減速機を数多く見てきたが、大半が既にあるものの改良だった。今回のAbacus減速機は全く見たことがないタイプ。波動歯車の発明に匹敵するほど、機械工学で数十年ぶりの革新になるかもしれない」と期待を込める。