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 例えば、情報システムの領域では金融機関や製鉄会社など、大規模なソフトウエアシステムを内製してきた企業が、そのノウハウを基にして社外向けのSI事業に参入する動きが盛んだ。NECや日立製作所、富士通などコンピュータを作る企業が本業とシナジーが見込める事業としてソフトウエアのSIに参入するのは当然ともいえるが、そうしたコンピュータメーカー系以外では、金融系の野村総合研究所や製鉄系の新日鉄住金ソリューションズなど、ユーザー的な立場が発祥のシステムインテグレーター(SIer)が現在でもIT分野で存在感を示している。

 協働ロボットの領域においても、こうした情報システムの領域で起きたのと同じ現象が今、始まろうとしているといえる。ロボット活用の先進ノウハウを持つ企業が、それを本業とは無関係の他業種の企業に向けて提供する。グローリーがSI事業へ参入したことは、その先駆けともいえる現象だ。

 ロボット分野でも従来、ロボットの周辺装置・機械などを手掛ける企業が本業とシナジーが見込める事業としてSI事業に参入したりすることはあった。しかし、ロボットとは無関係の通貨処理機という本業を抱え、純粋なユーザー企業という立場でしかないグローリーのような企業がSI事業に参入するのは珍しい。ロボットのユーザー企業の間でノウハウが蓄積してきており、広く他企業のシステム構築に役立てられる段階にまで来たということだろう。

 協働ロボットは特に大きな成長が望める市場だ。米Barclays社の試算では協働ロボットは世界全体で2025年に約1兆5000億円の市場規模になるとみられている。組み立て工程や食品業界での活用など、従来の産業用ロボットを適用しにくかった新たな用途でのニーズが主体のため、成長余地は大きい。

 例えば、本誌は2017年1月号で牛丼チェーンの吉野家の店舗における導入事例を紹介したが1)、これも協働ロボットである。外食産業、中食産業、物流分野など人手不足が深刻で、なおかつスペースの関係でロボットを安全柵で囲うのが難しいような業種で協働ロボットの活用ニーズは強い。グローリーのような協働ロボット専業のユーザー系SIerの誕生は、その市場拡大を加速させる上で好材料である。

大企業SIerの先駆け

 グローリーによるSI事業参入のインパクトは、大企業による参入であることだ。ロボットのSIerについての正確な統計は存在していないが、国内に1000社ほどあり、多くが地場の中小企業であるといわれている。中小企業の場合、人材育成がままならなかったりという課題を抱える。日本ロボット工業会(JARA)はSIerの一覧データを公開しており、そこには135社のSIerが紹介されているが、それも多くは中小企業である。グローリーのSI部隊は現状では約20人と数は少ないが、資本力のある大企業がSIを手掛けることの意義は大きい。

 実際、協働ロボットのユーザーの間でグローリーへの期待は高い。同社の飛田氏によると第1号案件の資生堂以外に、「既に十数社以上からSIの引き合いが来ている」。組み立て工程への適用や食品分野などからの引き合いが多いという。中小企業のユーザーだけでなく、資生堂のように自社で生産技術部門を抱える大企業ですらもグローリーの力を借りている点が象徴的だ。

 グローリーのSIの顧客は、すべてNEXTAGEの開発元であるカワダロボティクスやその代理店商社からの紹介である。NEXTAGEを購入しようとしたものの、ハンドなどの活用ノウハウが少ないユーザー企業がカワダロボティクスなどに相談し、グローリーを紹介されている。引き合いが多くあるため、当面は自社でSI事業のための専任営業などは置かない方針である。

独自ハンドや画像認識に強み

 十数社ものユーザー企業は一体、グローリーのどのような点に魅力を感じ、SIを依頼しているのか。グローリーは2012年に「ロボット大賞 次世代産業特別賞」を受賞するなど、その活用事例は著名ではあるが、改めてその技術の概要を見てみよう。

 まずグローリーがNEXTAGEを導入している対象製品は、主にスーパーや飲食店など向けの自動釣り銭機である。硬貨を扱う「硬貨ユニット」の組み立て工程で19台(図4)、紙幣を扱う「紙幣ユニット」の組み立て工程で4台(図5)を、それぞれ用いている。作業空間には原則として従来の産業用ロボットのような安全柵はなく、作業員のスペースと連続的につながっている。

図4 硬貨ユニット組み立て工程の様子
図4 硬貨ユニット組み立て工程の様子
人のすぐ脇で協働ロボットがネジ締めなどの組み立て作業を行っている。
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図5 紙幣ユニットの検査工程の様子
図5 紙幣ユニットの検査工程の様子
紙幣ユニットの組み立て工程では、組み立て作業だけでなくその後の検査工程もロボットが担っている。テスト用の紙幣を装置に挿入し、実際に動作するか確認する。
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 特徴的な技術は主に3つある。(1)吸引型とグリッパ型が一体となった独自開発の汎用3指ハンド、(2)NEXTAGEの頭部ステレオカメラを専用マーカの3次元位置認識だけでなく、通常の画像検査にも用いる工夫、(3)NEXTAGE自体をAGVやスライダーなどの移動機構に載せ、1台のロボットがこなせる工程数を増やす工夫、である。

 (1)は3本の指で部品を把持したり、指の先端にある吸引器でラベルを把持して貼ったりといった作業が可能である(図6)。グローリーは資生堂にもこのハンドを供与し、化粧品の箱の把持やラベル貼りなどに活用した(Case Studyの記事を参照)。通貨処理機の組み立て工程と化粧品の箱詰め工程、業種も工程の種類も全く違えど、共通のハンドをそのまま流用できている点はグローリーのハンドの汎用性を裏付けているといえる。

図6 グローリーが独自開発した汎用の3指の吸引ハンド
図6 グローリーが独自開発した汎用の3指の吸引ハンド
3指グリッパで部品などを把持するほか、指の先端には吸引ハンドも備えており、さまざまなモノのピッキングにハンド交換なしで対応できる。
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 (2)はロボット作業の工程数を減らしたり、大型部品の把持を可能にするための工夫である。通常、NEXTAGEの頭部ステレオカメラは、ワークや周辺治具などに添付した専用マーカの3次元位置を計測する用途で使う。

 NEXTAGEでは外観検査や把持結果の確認などは基本的に手先カメラを用いるというスタンスである。ただし、手先カメラで外観検査をしようとすると、反対側の手だけでしか検査対象のワークを把持できない。片手の可搬質量を超えるようなワークを把持したり、両手で把持した方が安定するような大型のワークを把持したまま外観検査などを可能とするには、手先カメラでは無理である。

 そこでグローリーは、頭部ステレオカメラの片方を単眼カメラとして利用し、両手でワークを把持した状態でも、その頭部のカメラで外観検査できるようにした(図7)。