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 手先カメラでは、カメラから近い位置に照明を配置することが多く、ワークの表面に陰影を付けにくい。これに対し、グローリーは頭部カメラでの外観検査向けにNEXTAGEの喉元に独自に照明を配置している。カメラから離れた位置に照明があることで、ワークの表面に対し浅い角度で光を照射できる。これにより表面の傷などを陰影によって浮かび上がらせ、その様子をカメラで捉えやすくしている。

図7 両手把持で製品検査をするためにステレオカメラを単眼利用
図7 両手把持で製品検査をするためにステレオカメラを単眼利用
製品の外観検査時に手先カメラを利用すると、片手がカメラでふさがり、両手での把持ができなくなる。重量の大きい大型の部品の検査には向かない。そこでグローリーは、通常はマーカ位置の3次元認識用に使われるNEXTAGEの頭部ステレオカメラを単眼利用。両手で大型の部品を把持しながら、カメラで外観検査できるようにした。
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 紙幣ユニットの組み立て後の検査工程では、実際、検査開始時に喉元の照明が発光を始め、組み上がったユニットを両手でさまざまな方向に動かしながら、光の当たる角度を変え、それを頭部カメラで撮影し外観検査している。

多工程で使い回しROI向上

 (3)の移動機構は、本体だけで700万円以上するNEXTAGEの投資回収効率を少しでも高めるため工夫である。一般にロボットをある工程で作業させるには、ロボットの周囲にワークの供給機構や交換用のハンド、治具などを配置する必要がある。ただし、ロボットの周囲に置ける供給機やハンドの数には一定の限界がある。すると、1台のロボットに担わせられる作業や工程の数に上限が出来てしまう。

 そこでグローリーは、NEXTAGE自体をAGVやスライダーに載せて工場内を自律移動できるようにすることで、1台のロボットにできるだけ多くの工程を担当させられるようにした。「1台のロボットの投資回収の期間を短縮するには、担当させる工程数をできる限り増やしたい。苦肉の策としてロボット自体を移動させることを思い付いた。作業場所を横に広げていけば、1台のロボットが扱う部品供給機やハンドの数をいくらでも増やせる」(飛田氏)。

 1日の生産量がそれほど多くなく、タクトタイムを極限まで短縮する必要がない製品であれば、非常に有効な方策である。コンピュータにおいて、1個のCPUを複数のタスクが時分割で共用しているようなイメージだ。

 このアイデアはその後、他のNEXTAGEユーザーの間にも広まった。例えば、本誌が2016年11月号で報告した日本ピストンリングによるNEXTAGE導入事例もその1つ2)。4台の工作機械の間をAGVに載せられたNEXTAGEが順次回るというものだ。

 グローリーの工夫を聞き付け、NEXTAGEのSIerであるTHKインテックスがほぼ同じ発想のシステムを日本ピストンリング向けに構築した。本誌が2016年12月号で報道したように、2016年10月には日立プラントメカニクスが、NEXTAGEを改造してAGVとコンパクトに一体化させた自律移動型協働ロボット「HiMoveRo」を発表するなど3)、グローリーのアイデアは広がりを見せている。

本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です

 グローリー自身は硬貨ユニットの組み立て工程では自社開発のAGVに(図8)、紙幣ユニットの組み立て工程(組み立て前の部品をトレーに配膳する作業)では大型のスライダーに(図9)、それぞれNEXTAGEを載せて移動できるようにしている。

 NEXTAGEは軸数が多く電力消費が大きいため、自律移動させた場合は電池持続時間が問題となる2)。前者のAGVでは、作業場所に来て静止した際は、作業台とロボットがコネクタで繋がり、電源とハンド用のエアーを供給できるようにした(図8)。後者のスライダーは長さ10mほど。電源とエアーは長いケーブルで供給し、ロボットの移動に合わせてリールで自動巻き取りするようにしている(図9)。

図8 ロボットを自律移動させて場所を確保
図8 ロボットを自律移動させて場所を確保
硬貨ユニットの組み立てでは多種類の部品やハンドを扱うため、それらを置いておく場所が足りなくなった。このためロボット側をAGVに載せて自律移動させ、ハンドや部品供給装置の場所を確保できるようにした。
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図9 レール上を移動しながら部品をピッキング
図9 レール上を移動しながら部品をピッキング
紙幣ユニットの組み立てでは、AGVではなく金属製のレール上をロボットが自律移動するようにした。ロボットは手前にトレーを抱えたまま左右に移動し、紙幣ユニットを組み立てるのに必要な部品を順次、そのトレーに載せていく。実際の組み立て作業自体は別のロボットが行う。AGVと比べて移動速度が速いため、この工程では周囲に安全柵を設けてある。
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ロボットSIに参入するなら今しかない、そう思った
飛田 昭夫氏  グローリー ロボットSI事業推進プロジェクトチーム 部長

 SI事業への参入を決めたのは、カワダロボティクスから「資生堂のSIを手伝ってみないか」との声掛けをもらったことがキッカケだ。当社ではNEXTAGEを早くから使いこなし、生産技術部門の技術者として自らの技術に自信は持っていた。多くの見学客が日々来訪するが「すごい技術だ」「外販できるのではないか」とのご意見をいただくことも多かった。だから、カワダロボティクスからSIの声掛けをもらったとき、社内向けの業務を手掛ける生産技術部門であったとはいえ、抵抗感は全くなかった。自分たちの技術は社外の他業界でも必ず生きるはずだという確信があった。いいタイミングで声掛けしてもらったと思っている。

 資生堂の案件以外にも商社経由などで内々にSIの引き合いを多くいただいていた。これだけの需要があるならばビジネスになりそうだということで、資生堂の案件が一段落した2017年3月、SI事業への参入を正式に発表した。当社の経営層からも「ぜひやってみろ」と後押ししてもらったこともある。おかげさまで反響は大きい。社内の人材育成さえ追いつけば、売り上げは大きく伸びそうだとみている。ちょうど経済産業省がロボットのSIerを育成しようという政策を推し進めている時期でもあり、うまい具合に国策の方向性に乗った形になった。

 資生堂の案件については、非常に苦労はしたが、最終的に当社のノウハウを存分に形にできたかと思っている。SIへの参入を決めてから、顧客先でさまざまな業界の工場の現場を見せていただくようになり、日々勉強の毎日だ。私は無知で知らなかったのだが、三品産業では工場内で人手の作業がまだ非常に多くあるようだ。業界は違っても、当社のSIの技術は十分生きるとの手応えを得ている。ただし、食品分野はやはり技術的になかなか難しい。鮭や唐揚げ、おにぎりなど把持が難しい具材が多くある。当社のこれまでの3指ハンドではなく、別の専用ハンドが必要になりそうだ。

 ノウハウの流出という点については全く心配していない。当社の技術が異業種で役立つのであれば、ありがたいことだ。ただし、同じ通貨処理機の競合メーカーからもしSIの依頼が来るようなことがあれば、それはさすがにお断りするだろう。

 SIへの参入を検討し始めてから生産技術面での特許も多く申請するようにした。これまでは社内向けの生産技術部門ということもあり、それほど徹底はしていなかった。NEXTAEGをAGVに載せるアイデア2)や、自律移動の際に双腕でインターロック用のボタンを押し、安全性を確保する仕組み3)などについて、これまでは他社が似たアプローチを採用しても「ああ、マネされたな」くらいだったが、これからはスタンスをガラりと変え、SI事業者として知財面の戦略も徹底していくつもりだ。

 我々は社内向けの生産技術部門として長くやってきたので、システムを作って終わりではなく、それを日々どう運用していくかという面でも強みがある。ここはユーザー企業系のSIerならではの部分で、他のSIerと比べて差異化できる点だろう。とはいえ、協働ロボットはまだ新しい市場。他の企業とも協力できるところは協力し、一緒に市場を作っていくというスタンスで望みたい。(談)

1)長場、「吉野家が店内の食器洗浄工程に協働ロボ導入へ、同社未来創造研究所が主導したロボット導入戦略」、『日経Robotics』、2017年1月号、pp.3-5.
2)進藤、「自律移動し始めた双腕ロボ、工場内を自ら回り作業、日本ピストンリングが部品搬送とピッキングに導入」、同上、2016年11月号、pp.18-23.
3)進藤、「日立製作所が自律移動型の協働ロボットに参入、SLAM生かしガイドなしで複数箇所巡回し軽作業」、同上、2016年12月号、pp.11-13.