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 これまで産業用ロボットアームというと、床に固定して据え付けというのが主流だった。

 ところが、そんな状況が変わりつつある。ロボットアームが車輪などの自走機能を備え、工場内を自ら動き回って作業するようになりつつあるのだ。従来、自動化したい作業が工場内の複数の場所にあれば、それぞれの場所にロボットアームを据え付ける必要があったが、それが不要になるインパクトがある。

 自動車向け金属部品を手掛ける日本ピストンリングは2016年6月、移動機構を備え自律的に動き回ることができる双腕ロボットを栃木県の栃木工場に導入した。自社工場内の複数の場所をロボットが自ら巡回し、それぞれの場所で軽作業を実施。1つの作業が終わると、作業に必要な部材一式を抱えたまま、次の作業場所に向けて移動を開始する。

 こうした一連の作業を、ほぼ人の介在なしに24時間自動で行えるようにした。従来、人が実施していた作業をロボットで代替したことで、当該工程にほとんど人が従事しなくて済むようになった。

図1 工場内を自律移動して作業する双腕ロボット
図1 工場内を自律移動して作業する双腕ロボット
金属製の加工部材を両脇に抱えて、4台の旋盤の間を順次回り、双腕アームで加工部材を旋盤のストッカー部に並べる作業を行う。
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 導入したのはカワダロボティクスが開発した双腕ロボット「NEXTAGE」である。NEXTAGEはもともと下部にキャスターを備えているため、人が押すことで設置場所自体は比較的容易に変更が可能だったが、自走機能はなかった。

 今回、日本ピストンリングは、NEXTAGEのシステムインテグレーターであるTHKインテックスが開発した自律移動機構付きのNEXTAGEを導入した。同ロボットは、NEXTAGEにAGV(無人搬送車)を組み合わせたもので、指定したルート上を自律移動し、複数場所での軽作業とそれらの間での資材の搬送を1台でこなすことが可能である(図1)。導入費用は2200万円ほど。数年で投資を回収できる見込みという。

レイアウトの制約を撤廃

 日本ピストンリングはもともと通常の垂直多関節ロボットについては、部材の供給やバリ取りなどで以前から多く活用してきた。ただ、ロボットの適用工程をより広げる目的から、安全柵で囲う必要性が薄く、人と同じ空間で作業しやすい協働ロボットの活用についても模索していた。「ロボットは有用ではあるが、安全柵を設ければ、その一帯は工場内で人の立ち入り禁止エリアになってしまう。こうしたレイアウトの制約がない協働ロボットは魅力的だった」(同社 生産技術第二部 部長の大高 和義氏)。

 導入の直接のキッカケは、同社が共同研究していた東京工業高等専門学校からNEXTAGEの紹介を受けたことである。その後、NEDOを介してTHKインテックスを紹介され、2015年ごろから導入を検討。2016年4月に部分的に稼働を開始し、同6月に正式に本格稼働し始めた。

4台の旋盤の間を24時間回る

 日本ピストンリングがロボットを適用したのは、栃木工場内にある4台の工作機械に対し、加工前部材(ワーク)を供給する作業である。同社は自動車部品を製造するために、主に金属加工を手掛ける。金属の粗材を旋盤などの工作機械で加工し、所望の自動車部品に仕上げている。今回は、トラックなど商用車のディーゼルエンジンで主に使われる「ロッカーブリッジ(rocker bridge)」と呼ばれる部品の製造工程に、自律移動機構付きの双腕ロボットを導入した。

 4台の旋盤では、同じロッカーブリッジを同時並行で製造している。旋盤では1個の部材当たり数分ほどで加工が終了するため、各旋盤には加工前の部材を数十個分、並べてためておく「ワークストッカー」と呼ばれる装置がもともと備わっている。旋盤に対してはここから部材が自動供給されるため、ストッカーへの部材の供給は50分に1回ほど行えば済む(図2、図3、図4)。

図2 4台の工作機械を順次回り加工部材を供給
図2 4台の工作機械を順次回り加工部材を供給
AGV付き双腕ロボットは工場内で4台ある旋盤の間をリング状の経路で順次回る。部材を自ら搬送しつつ、旋盤の前で部材を供給する作業を行う。
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図3 双腕ロボットが工場内を自律移動
図3 双腕ロボットが工場内を自律移動
リング状の経路を時計回りの方向に進む。床に貼付した磁気テープに沿って移動する。
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図4 AGV付き双腕ロボットの外観
図4 AGV付き双腕ロボットの外観
旋盤の前に止まり、加工前の部材を旋盤のストッカーに並べている様子。両脇にあるトレーから、双腕で2個の部材を同時にピックアップする。
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 双腕ロボットが行うのは、加工前部材を外部から旋盤の場所まで運び、それをストッカー内に20個並べる作業である(図5)。