PR
この記事は日経Robotics 有料購読者向けの記事ですが
日経Robotics デジタル版(電子版)』のサービス開始を記念して、特別に誰でも閲覧できるようにしています。

前回の記事はこちら

本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です

 前回は米Defense Advanced Research Projects Agency (DARPA)の成り立ちやDARPAプロジェクトを説明した。今号ではプロジェクトの設定と運営について述べる。

 米国ではDARPAなどの国の組織が税金を使ってプロジェクトを実施する場合、「Broad Agency Announcement(BAA)」と呼ぶ公報を発行し、その実施契約者を公募する。BAAは厚い書類で、応募要領や予算などが記してあるとともに、DARPAの研究プロジェクトのような場合にはその分野の概要や課題などがよく書かれているポジションペーパーとも言えるものだ。書くのはプログラムマネジャーだが、コンサルタントや大学の研究者などのブレーンがたいていいる。

 DARPAはBAAを発行した後、提案書を受け付ける。提案するのは大学や大企業、ベンチャー企業、米SRI International社や米BBN Technologies社などの研究機関で、採択されればプロジェクトのメンバー契約者になれる。提案書で大事なことは「課題をどう解くか」について詳細に書くことだ。よくある「何をすべきか」といった問題提起(それはBAAに書いてある)ではダメで、自分はどうやって解に達するかの道筋を具体的・技術的に書かなければならない。

 提案書の評価はPeer Reviewではない。Peer Reviewは米National Science Foundation(NSF:米国立科学財団)などが採っている方法で、関連分野の研究者たち(Peer)に提案書を送って点数を付けてもらい、点数が高い順に資金を分配するというものだ。DARPAの場合はプロジェクトマネジャーの一存で提案書を採択することができる。もちろん、一存と言っても1人で全てを決めるわけではない。前述のブレーンや米国防総省の研究者とともに評価しているようだ。

分野ごとに数人のコントラクターが競い合う

 一般的に1つのプロジェクトは2~5の要素的分野と、分野の成果をまとめてシステム統合を行う統合分野から成る。要素分野ごとに数件、統合分野は1件、合計で10~15件程度の契約(コントラクト)から成り立つことが多い。1つの分野に対して複数のコントラクターがいるので、互いに競わせる格好になっている。

 プロジェクトは年に1~2回、全体的なミーティングを開く。全てのコントラクターは自分たちの取り組み内容や結果を発表する。プロジェクト成果のユーザーである軍のユニットや企業が招待されることも多く、成果発表会、評価会、打ち合わせ会の様相を呈する。予算が増えたり減ったり、時には打ち切られることもあるので、コントラクターにとってはかなりのプレッシャーになるが、良い成果を見せたい、統合システムに取り入れられたいという彼らの強い競争心が、プロジェクトを進める上で最大のドライビングフォースになる。

 コントラクター同志で競争させつつ、協働もさせている。各コントラクターの優れた成果を互いに使うことを奨励し、より高いステージを目指すのだ。協働(Collaboration)と競争(Competition)を組み合わせたもので、私はこれを「Collapetition」と呼んでいる。ここで重要なのは、弱い者が集まってCollapetitionしても高みには行けない。強い者たちのCollapetitionでなければならない。

本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です
DARPAが主催して開催した災害対応ロボットの競技会「DARPA Robotics Challenge(DRC)」の様子
DARPAが主催して開催した災害対応ロボットの競技会「DARPA Robotics Challenge(DRC)」の様子
(写真:日経Robotics)

 全体ミーティングとは別に、プロジェクトマネジャーはコントラクターの元を順番に尋ねることもする。2日間くらい滞在し、徹底的な議論を通じてコントラクターの尻を叩く。場合によっては研究の方向性や重みの分配を変えさせたりもする。時には強引な要求もないではないが、コントラクターの意見や希望を無視してやみくもに行うというわけでもない。要するにプログラムマネジャーの腕は、いかにコントラクターの実力を引き出せるかなのだ。面白いのは、プログラムマネジャーの最も重要な要素は何かと関係者に聞くと、「人をその気にさせる人間的魅力だ」という答えが返ってくることだろう。

次回の記事へ

金出 武雄(かなで・たけお)
1945年生まれ。1974年京都大学電子工学科博士課程修了後、同大学助教授を経て1980年に米Carnegie Mellon University Robotics Instituteに移り、准教授などを経て現職。日本でも2001年に産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センターを設立、2009年までセンター長(非常勤)を兼任。自動運転車や自律ヘリコプター、顔認識、仮想化現実などロボット工学・画像認識の世界的権威。