余裕のある工程から応援を出す
もう1つの進捗・稼働監視システムは、作業実績データと計画データを工程ごとに突き合わせ、遅れの状況などをリアルタイムで一覧表示するもの。そのままの状況で推移したときに、各工程がいつ終了するかを予測する機能も持たせた。
画面には、基本的に棒グラフのような表示が出る(図3)。工程ごとに棒が2本あり、左が計画、右が実際の状況を示す。縦軸は時刻(下方が早い時刻、上方が遅い時刻)を示しており、右の棒が左より低ければ計画よりも早く作業が進んでいることを表し、右の方が高ければ遅れていることになる。右の棒が終業時間よりもずっと上に伸びている場合、当日中に作業が終わらない見込みを示す。
さらに同画面では、短い横棒で完了予測時刻の目安を表示する。人数を増やすと、この横棒の位置が画面の下の方(早い時刻)に移る、というシミュレーションが可能。管理者はこの画面で、作業が早く終わりそうな工程の作業者を遅れの大きい工程へ回して応援させる、といった対策を検討できる。
現場の能力を前提に納期を最適化
以上で説明した作業改善支援システムと進捗・稼働監視システムは、どちらかと言えば細かい改善をコツコツと積み上げることに相当する。すなわち、3Mの最適な利用により、作業時間の短縮や状況変化への臨機応変な対応を可能にするものだ。
生産リードタイムの半減はこれらの取り組みだけで達成できるわけではなく、同事業所はさらに工場全体の運用を最適化する仕組みなどを導入している。その1つが、工場全体の動きと物流の状況を予測する工場シミュレーター。「工程を組み変えることも含めて、個々の製品の納期を最短にすることを優先させて計画を立てるのに使う」(大橋氏)。
ただし、このような計画を立てる前提になるのが、3Mをきめ細かくコントロールできる現場の能力である。「要求される個々の作業の目標所要時間を、それぞれの現場が時々刻々と対応して達成していく、という現場力との組み合わせで生産リードタイムの半減を達成できた」(同氏)という。
加えて、3Mに関するデータを設計にフィードバックすることにより、製品の設計段階からリードタイムとコストの低減も図る取り組みも進めている。過去の不良品のデータを設計ルール化して設計者が使うCADにフィードバックし、設計段階での不良を極力防ぐとともに、モジュラー設計を強化する*3。これらの活動を総合することによって納期短縮、生産性向上を図る「高効率生産モデル」を実現している。
*3 「工場シミュレーター」と「モジュラー設計」の2つのシステムについても、2017年内に外販を始める予定。
1)鬼澤亮, 高村稔子, 田中将貴, 本橋修一, 「グローバル時代の多品種少量製品におけるIoTを利用した次世代生産システム─日立製作所大みか事業所での取り組み─」, 『日立評論』, Vol.98, No.03, pp.45-48, 2016年.