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CO2を「資源化」する

 人工光合成プラントの実現に当たっては、まずは(3)の新しいオレフィン合成プロセスから導入することになりそうである。従来のオレフィン合成プロセスで利用する設備などを大きく変更する必要がなく、導入のハードルが低いからだ。

 その際、光触媒シートから得られる水素でメタノールを作るのではなく、既存の手法で得た水素を使う方針としている。例えば、鉄鋼プラントにおける鉄鋼の製造過程で生じる副生ガス内の水素を利用する。この水素とCO2からメタノールを作り、そのメタノールからMTO反応でオレフィンを作る。これにより、「まずはCO2を『資源化』する」(三菱ケミカルの瀬戸山氏)考えである。

 こうした一連の設備を償却した後に、(1)の光触媒と(2)の分離膜を組み合わせた水素発生装置を、徐々に導入・拡大し、2030年前後に人工光合成設備を実用化するシナリオである。最終的に巨大な人工光合成プラントの稼働を目指している。

人工光合成ハウスの実証始まる

 こうした大型の人工光合成プラントに向けた研究開発が進む一方で、太陽電池のように住宅の屋根に「人工光合成パネル」を導入しようという動きもある。

 例えば、大阪市立大学 人工光合成研究センター 所長で、同大学 複合先端研究機構 教授の天尾豊氏らの研究グループと飯田グループホールディングス(飯田GHD)は共同で、人工光合成技術を採用した実験用住宅「IGパーフェクトエコハウス」を沖縄県宮古島市に建設し、実証試験を2017年内に始める(図5)。天尾氏らのグループは、藻類や酵素を用いた人工光合成を軸にした研究に長年取り組んでいる。飯田GHDは、2015年に人工光合成研究センターと共同研究部門を設立していた。

図5 人工光合成ハウスで実証試験を開始
図5 人工光合成ハウスで実証試験を開始
大阪市立大学は飯田グループホールディングス(飯田GHD)と共同で、人工光合成技術を採用した「IGパーフェクトエコハウス」を沖縄県宮古島市に建設し、実証試験を2017年内に始める(a)。昼間、人工光合成技術でギ酸を生成して貯蔵。夜間にそのギ酸を水素に変換して発電し、住宅で消費する電力を賄う(b)。例えば、給湯システムや電気自動車などに電力を供給する。人工光合成は、住宅の屋根に設けたパネルで行う。パネルには、色素・ビオローゲンを酸化チタンに塗布したシートを利用する予定である(c)。(図(a)と(b):飯田GHDと大阪市立大学)
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 今回の実験用住宅では、昼間、屋根に設置した人工光合成パネルでギ酸を生成して貯蔵する。夜間にそのギ酸を水素に変換して発電し、給湯システムや電気自動車などに電力を供給する。ギ酸から水素を作り出すと、CO2が出る。そのCO2を昼間の人工光合成に利用する考えである。

 実用化のカギを握るのが、人工光合成パネルのコストである。実験用住宅のパネルには、ギ酸の生成に使う色素・ビオローゲンを酸化チタン(TiO2)に塗布したシートを利用する。現状、天尾氏らのグループは変換効率(生成物のエネルギーを入射光のエネルギーで割った値)を高めるために「ギ酸脱水素酵素」を利用している。

 だが、TiO2を利用すると、「理由は調査中だが、ギ酸脱水素酵素がなくてもほとんど変換効率が変わらない」(天尾氏)という。つまり、ギ酸脱水素酵素なしで人工光合成シートを実現できる。同酵素が不要な分、大幅にコストを削減できる可能性があるという。なお、現在の変換効率は1%ほど。今後さらに高める考えである。

 こうした人工光合成ハウスとは別に、天尾氏らのグループは、ギ酸の生成速度を高める研究に取り組んでいる(図6)。例えば、CO2をギ酸に還元する反応を促進する新しい人工補酵素分子「DAV」を開発した。ギ酸の生成速度は、従来の人工補酵素分子「メチルビオローゲン(MV)」の2倍に向上した。この速度は、「業界最高」(天尾氏)だという。

図6 ギ酸の生成速度を2倍に
図6 ギ酸の生成速度を2倍に
大阪市立大学の研究グループは、二酸化炭素のギ酸への還元反応を促進する新しい人工補酵素を開発した。ビオローゲンの化学構造の両端にアミノ基(-NH2)を2つ導入した新たな分子「DAV」である。「水溶性亜鉛ポルフィリン」(色素)と「ギ酸脱水素酵素」で構成する二酸化炭素をギ酸に変換する光レドックス系にDAVを利用(a)。その結果、ギ酸の生成速度は、従来の人工補酵素分子「メチルビオローゲン(MV)」の2倍になった(b)。(図:大阪市立大学の資料を基に本誌が作成)
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