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 一方、Li過剰系正極はLi(M1-xLix)O2、またはLi1+xM1-xO2といった、遷移金属の一部をLiで置換した材料群である。充放電を担うキャリアであるLi濃度を増やして放電容量を増やすのが狙いだ(図2)。Liが過剰な分、1種類のMでは電子を十分出し切れず、複数種類の遷移金属を使うことが多い。ところが、この場合、充電時にLiイオンが解離すると、正極材料の構造が比較的早く不安定になり、MだけでなくOも酸化されて、O2またはO2が脱離してしまう。これはつまり、充放電の可逆性が低く、サイクル寿命の短さにつながる。これまで、高い放電容量密度は実現できてもサイクル寿命の壁をなかなか越えることができなかった。

図2 元素総動員で、放電容量の高密度化に挑戦
図2 元素総動員で、放電容量の高密度化に挑戦
正極の研究開発では、Li密度を高めるために電子授受に寄与する元素の種類を増やす「Li過剰系正極」に脚光が当たっている(a)。しかし、これまでは充放電サイクル寿命が短かったり、Nbなど高価な元素を使う必要があったりで実用化を見通せていなかった。東京電機大学 藪内研究室が開発した正極「Li1.2Ti0.4Mn0.4O2」はLi以外に安い元素を使いながら高容量密度が得られる(b)。20サイクルまでは持つことも判明した。
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 この解決に取り組んだのが東京電機大学准教授の藪内直明氏の研究室だ(図2(b))。

酸素が出入りしない“酸素電池”

 藪内氏らは2015年にLi1.3Nb0.3Mn0.4O2という材料を開発し、負極が金属Liの場合に正極で950Wh/kgという高いエネルギー密度を確認した注2)。ただし、ニオブ(Nb)の価格はもともと高価なCoのさらに2倍近く高く、コスト要求が厳しい車載用電池には不向きだった。そこで、2016年末にはNbをTiに代替した材料Li1.2Ti0.4Mn0.4O2を開発し、Li以外は安い材料だけで正極としてのエネルギー密度1000Wh/kgを実現した1)

注2)この値は正極の活物質の重量当たりのエネルギー密度。負極や電解液、セルのパッケージなどを含めるとエネルギー密度は一般に正極だけの場合の1/2以下になる。

 藪内氏によれば、これらの正極材料の開発には、エネルギー密度が非常に高いLi空気電池が頭にあったとする。Li空気電池は、酸素を酸化還元に使うことで高いエネルギー密度を実現する。LIBの正極でも酸素を酸化還元に使えれば高いエネルギー密度が得られるはずと考えたという。ただし、正極で酸素を脱離させてしまっては可逆性が失われる。そこで、酸化還元を金属酸化物イオン全体で担うようにして、充電時にO2を脱離させないようにすることで、可逆性と高いエネルギー密度の両立に成功した。

 肝心のサイクル寿命は当初は10サイクル後の容量維持率が83%と短かったが、最近は20サイクル後でも容量劣化がほとんどない水準まで大きく改善したという。「現行LIBでは対応が難しくなる5~10年後の実用化を目標にしている」(藪内氏)という。