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 「技術力は高いのに利益につながっていない」──。本号の冒頭のコラム「挑戦者」で、経済産業省 製造産業局長の糟谷敏秀氏は日本企業の現状をこう評した。優れたコア技術を持ち、その技術を磨くことで利益を上げてきたこれまでの手法が通用しづらくなってきたのだ。

 典型例がシャープである。液晶や太陽電池分野などで特に高い技術力を持つ同社は、2000年以降に急成長を見せた。2000年度(2001年3月期)に約2兆円だった売上高は2007年度(2008年3月期)に3兆4000億円を突破し、1837億円の営業利益を稼いだ。一時は世界的なブランド企業にまで上り詰めたにもかかわらず、2007年度をピークに売上高は下降線をたどり、2012年3月期(2011年度)には営業赤字に転落。その後も坂を転げ落ちるように経営が悪化し、度重なる経営危機に陥った。現在は資金繰りに窮して、台湾の電子機器受託製造(EMS)の鴻海精密工業や日本の官民ファンドである産業革新機構が同社の支援に名乗りを上げている。

2.8兆円の利益を稼ぐトヨタの次の戦略

 対照的な動きを見せるのがトヨタ自動車だ。2015年度(2016年3月期)の売上高の予想は約27兆5000億円で、営業利益の予想は約2兆8000億円。足元に減速感はあるものの、10%を超える利益率を確保する力がありながら、次を見据えた攻めの戦略を打ち出している。

* ただし、2016年2月に発生した完成車組立ラインの停止の影響を受ける可能性はある。

 トヨタ自動車には、自社の「DNA」とも言える強みとしてトヨタ生産方式(TPS)がある。TPSでは、必要なものを必要なときに必要な量だけ造る「ジャスト・イン・タイム」生産や、不良が生じたら即座に生産ラインを止める「自働化」を徹底し、ムダ・ムラ・ムリを排除して、常に改善を目指す。

 このTPSの基本思想を満たす生産技術や製造技術の開発をこれまで通り進化させるのと同時に、同社は欧州から新しい設計手法を吸収。車種のセグメントをまたぐ部品の共通化を踏まえた設計思想である「モジュラー設計」手法を導入し、「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」として全社的に展開しつつある(図1)。これにより、生産面に加えて設計面の効率化も図ることで、競争力をさらに高める計画だ。例えば、同社は開発工数を2割以上削減する考えで、その分、顧客ニーズにより合致した付加価値の高いクルマの開発に経営資源(ヒト、モノ、カネ)を回すことができる。トヨタ自動車が掲げている「もっといいクルマづくり」という曖昧模糊(あいまいもこ)としたスローガンの裏には、こうした戦略が隠れている。

図1 トヨタ自動車のものづくり戦略
図1 トヨタ自動車のものづくり戦略
自社の固有技術であるTPSで生産技術や製造技術を磨いていく従来の路線に加えて、欧州からモジュラー設計の手法を導入。これにより、クルマづくりの効率を高め、「もっといいクルマづくり」という新たな成長路線を目指す。
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