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5Gでは、高速・大容量化の実現に従来の無線アクセス技術からみて非常に先進的な新技術の利用を想定する。それが数十本から1000本超のアンテナ素子を利用して、利用者を追跡する「Massive MIMO」などだ。各ベンダーが進めている開発の進捗状況と、課題の解決例などを紹介する。

 「まるでSF」─。ある無線アクセス関連の技術者は、5Gで登場する新しい無線アクセス技術(新RAT)をこう表現する。新RATでは、4GHz帯以上の高い無線周波数を利用する上に、多数のアンテナ素子を利用したMassive MIMOなどの利用を想定するが、これまで商用サービスで実用化された実績はなく、手探りの開発になる。それでも5Gで規定する最大データ伝送速度20Gビット/秒かつ最低でも100Mビット/秒といった目標値を実現するには避けられない選択肢になっている。

Massive MIMO=数十本以上のアンテナ素子を用いるMIMO技術。

既存技術では限界

 これまでの移動体通信で一般的だったマクロセルは基地局のアンテナ素子1本から数十Wの電力を無指向で発射して半径が数百~数kmの通信可能領域を作り出す方式である。既存技術で、通信容量を増やしても、2020年までにほぼ限界を迎える。さらに通信容量を増やすには、(1)空間分割多重の程度を高める、(2)新しい無線周波数領域を利用する、のいずれかしかない(図1)。5Gでは(1)と(2)の両方を進めることで通信容量の大幅な拡大を図ろうとしている。ただし、それも既存技術の枠内で進めると、必ずしも大きな効果が得られない。

図1 ビームフォーミングで空間多重と周波数帯域拡大を両立
図1 ビームフォーミングで空間多重と周波数帯域拡大を両立
多素子アンテナによるMUMIMOとビームフォーミングが5Gでなぜ必要とされているかを示した。5Gで要求される最大20Gビット/秒というピークデータ伝送速度は従来の技術では実現できず、高密度の空間多重か周波数帯域幅の大幅増の少なくともいずれかが必要になる。どちらを選んでも、MU-MIMOとビームフォーミングが有力な選択肢になる。
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 これまで、(1)の空間分割多重には小セルを使う手法が採られてきた注1)。この手法は小セルの密度が低いうちはよいが、小セルを密集させすぎると、セル間干渉の領域が相対的に増え、ハンドオーバーの頻度も増えて、かえって通信容量が低下してしまう。

注1)マクロセルと小セルを周波数帯を分けて混在させる手法は、ヘテロジニアスネットワーク(HetNet)と呼ばれ、4Gで既に取り入れられている。制御信号の送受信にはマクロセル、ユーザーデータの送受信には小セルを使い分ける「デュアルコネクティビティ」技術は、3GPPのRelease 12で規定された。

 また、(2)で新周波数帯として利用できるのは4GHz帯以上の高い周波数だけである(第3部参照)。こうした高い周波数帯では十分な通信距離の確保が難しい。特にミリ波ではパワーアンプの効率が低く、飽和出力電力も低いため、アンテナ1素子当たりの出力を高めることが容易ではない。しかも、伝播損失が大きい。

飽和出力電力=パワーアンプの最大出力。投入電力を増やしても出力電力が増えなくなる際の出力電力。