ワイヤレスでIWMを動かす
ブレーキやステアリングを脇役に追いやり、シャシー技術の主役に立つ潜在力を持つIWM。2020年頃の実用化に向け開発が活発だ。注目が集まるのが、IWMの課題である(1)搭載性が低いこと、(2)ばね下質量が重いこと、(3)配線の信頼性を高めにくいこと――の解決に向けた取り組みである。
(1)の搭載しにくい課題の解決に向けて、軸方向に短いIWMを開発したのがNTNである(図3)。既存の車両のストラット式サスペンションの配置を大きく変えることなく、IWMを載せられる。プラットフォームの変更を最小限にして、開発工数を抑える。量産車に開発品を載せられることを2016年に確認済みで、2020年頃の量産化を目指す。
軸方向を短くするために、減速機に平行軸歯車を使った。従来はサイクロイド歯車で、モーターの出力軸とハブベアリングの回転中心が同軸上にあった。平行軸歯車にすると、出力軸とハブベアリングの回転中心がずれる。径方向に大きくなるが、軸方向が短くなる。軸方向の長さは従来品に比べて約70mm短い約250mmにできた。
開発したIWMの最高出力は30kW、最大トルクは515N・mで、従来品と同等である。平行軸歯車の減速比は13.2。
NTNは、開発品の売り込み先として中国メーカーに力を注いでいると明かす。中国政府がEVの普及を後押ししているからだ。同社によれば、中国メーカーは、既存の量産車とIWM搭載車を乗り比べたいと望む傾向が強い。開発品は量産車に搭載しやすく、同社は受注につなげやすくなると期待する。
(2)のばね下質量が増えるのを抑える技術を提案するのがドイツZF社である。厳密にはIWMと言えないが、後輪のトーションビーム式サスペンションを構成するトレーリングアームにモーターを搭載する「Electric Twist Beam(eTB)」を開発した(図4)。IWMと同等の運動性能を実現すると主張する。現在は試作段階で、2019~2020年に技術的に量産できる水準にする。
モーターと歯車で構成する駆動部の質量のうち、一部をばね下、一部をばね上に分散して、ばね下質量が増えるのを抑える。ばね下のハブベアリングとばね上の車体をつなぐアームの中心付近に、モーターを搭載して実現した。試作車のアーム長は400mmで、モーター部の重心がハブベアリング側から100mmの位置になるようにした。これで、ばね下に加わる質量を43%減らした。
モーターは永久磁石式の同期モーターで、最大出力は電圧の違いで75k~85kW、減速機を介した後のホイールに加わる最大トルクは1400N・m程度に達する。Bセグメントの車両に搭載することを想定する。減速機には遊星歯車と平行軸歯車を組み合わせたものを使い、減速比は16.0と大きい。
(3)の配線の信頼性を高めにくいという課題は、車輪が上下方向に振動し、電源線や信号線が頻繁に動くことから生じる。剛性や強度の高い電線を使うことや、振動を抑えるサスペンション構造にする取り組みが有力とされる。一方、電線そのものをなくす大胆な構想を考えるのが東京大学の藤本氏らの研究グループ。東洋電機製造や日本精工と共同で、ワイヤレスで電力を供給するIWMを開発した(図5)。
車体に搭載した送電側の10cm角のコイルと、同じ大きさの受電側のコイルを約10cm離した状態で向かい合わせて電力を送る。モーターの最高出力は3.3kWで、後輪に2基搭載する。