人の定義の1つに「道具を使う動物」というものがある。道具、すなわち物は、人の力の源泉である。わが国の歴史も「縄文」という土器の名称から始まった。そして、物づくりは人類にとって常に大きな課題だった。
もっとも、この物という概念が20世紀に大きく変わった。その契機は、ソフトウエアの導入である。素材としての物に始まり、駆動機構が組み込まれ、やがて自前のエネルギーを持つようになった。20世紀は電気の時代である。蓄電器や電灯、発電機、モーターなどが登場し、社会を大きく変えた。1946年に米国で発明された黎明期のコンピューター「ENIAC(Electronic Numerical Integrator and Computer)」や、1971年に発明されたマイコンが、物への知能の導入を果たした。いわゆる「組み込み化」である。
このように拡大された概念の物を、本稿では「もの」と呼ぶことにする(図1)。もの化に伴い、物づくりも「ものづくり」も変わらざるを得なくなった。例えば、安全性である。安全性の概念は、メカの機構だけに注目する機械安全から、ソフトが安全性を担保する機能安全へと広がった。しかも、ソフトには出来上がった後でも変えられるという特質がある。いわゆるアップデート(update)という考え方であり、ものは変化するようになった。

このアップデートには、外部との通信が不可欠である。ものとパソコンなどが通信ポートを介して結合されている。そして、この通信ポートは、ソフトの開発時やアップデートだけではなく、ものの内部の状態監視や、ものとものの通信にも使われ始めた。
現在ではEthernetやUSB、携帯電話網、無線LANなどの通信ポートを介して、ものとものの通信が当たり前の時代を迎えている。これこそがIoT(Internet of Things)である。