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図1 トヨタ自動車で工場を統括する専務役員の河合満氏
図1 トヨタ自動車で工場を統括する専務役員の河合満氏
ものづくりの現場で50年以上のキャリアを持つ。2015年4月、技能職出身者として同社初の専務役員に就任した。

 「どんなに自動化が進んでも、それを進化させるのは高い技能を持った人だ」。そう語るのは、トヨタ自動車工場統括の河合満氏だ(図1)。同氏は50年余りに渡ってトヨタ自動車の生産現場に携わってきた。2015年4月には技能職出身者として同社初の専務役員に就任。その背景には、いま一度トヨタ自動車の生産現場を強化したいという同社の決意がある。

技能レベル低下に危機感

 河合氏は10年近く前、「人の技能を伸ばさないといけない」と危機感を抱いたことがあった。ある現場で「この工程で1番うまい人は誰だ」と聞くと、62歳の技能者が1番、2番目は58歳だった。彼らが現場を離れる日はそう遠くない。「このままでは、トヨタ自動車の技能レベルが低下していってしまう」。河合氏はそう思った。

 トヨタ自動車では専門技能修得制度があり、溶接や鍛造といった職種ごとに必要な知識や技能を修得する。C級から始まり、B級、A級、S級へとレベルアップしていく形だ。座学だけではなく実技も学ぶが、これだけでは不十分だと痛感したのだ。

 実際、工場内を見て回ると、例えばフレームの溶接は全てロボット化されている。現場にはA級に合格した技能者が何人もいたが、溶接技能を聞くと「上手です」とは答えてくれない。それどころか「溶接ロボットが上手なので大丈夫」という。「ロボットがどんなにキレイに溶接できていたとしても、自分自身に溶接の技能がなければ正しく評価はできない。ロボットが故障することもある。きちんと熱が伝わって溶接されているかどうか、色や音から判断できなくてはいけない」(河合氏)。

 大量生産を実現すべく自動化が進み、手作業の機会は大幅に減少している。「自動化は匠の技能を形式値化、標準化してきた結果。人の知恵や工夫が組み込まれている。自動化されたラインよりも高いレベルで人を育てないと、ラインの進化は止まる。ものづくりの原理原則、進化の過程を知ることが大切だ」(河合氏)。自動化が進んだだけではなく、設備の故障も減り、トラブルを解決する経験も少ない。このような状況の中、どう技能を高めていけばいいのか。

 そこで、6~7年前に始めたのが高技能者育成の取り組みである(図2)。S級のさらに上の位置づけとなるが、正式に制度化しているわけではない。ポイントとなるのが、手作業による経験を積むことと、どんな課題でも解決できる柔軟な実践力の養成である。豊田章男社長にも、「テストで多くの問題を解いて高い点数を取るよりも、最も難しい問題に挑んで解決できる人を育ててくれと言われた」(河合氏)。

図2 高技能者の育成
図2 高技能者の育成
鍛造や塗装、組み立て、成形といった職種ごとに年間40~50人、30~40歳の技能者を選抜して高技能者を育成している。その柱は、国内とは状況が異なる海外工場での課題解決や、他工場の技能者とチームを組んだライン構築などの実務経験である。
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