• 主な用途:未利用熱の活用
  • 課題:変換効率の向上と量産技術の確立

ガソリンエンジンの燃焼エネルギーのうち6~7割は、エンジンの排気やラジエーターの排熱といった形で捨てられている。このエネルギーの損失を低減する方法の一つとして検討されているのが「ゼーベック効果」を利用して発電する熱電変換素子だ。複数の素子を直列につないだ高さ1cm前後、縦横数cmの大きさのモジュールで、数Wの発電が可能だ。単位面積当たりの発電量が大きく、排熱回収器と一体化するなどの活用が見込まれている。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」のプロジェクトでは、2022年までに実用化のメドをつける目標だ。車載モジュールの開発期間などを含めると、2030年ごろにはクルマへの搭載が期待できる。

 熱電変換素子では、大きな電位差を得るために「n型」と「p型」と呼ばれる金属や半導体を組み合わせるのが一般的だ(図1)。素子に使う材料のうち、エンジンの未利用熱(300~700℃)で高い変換効率を示すのは鉛(Pb)やテルル(Te)、アンチモン(Sb)、セレン(Se)、タリウム(Tl)といった、希少で毒性が高く低融点の元素を含むものがほとんどだった。コストや環境対応の観点から、車載の熱電変換素子はまだ実用化に至っていない。

図1 熱電変換素子の大まかな仕組み
図1 熱電変換素子の大まかな仕組み
「n型」と「p型」と呼ばれる2種類の金属や半導体を接続し、両端に温度差を与えると電位差が生じる「ゼーベック効果」を利用して発電する。
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 こうした元素に代わる材料として、低コストで毒性の低い金属とS(i シリコン)の組み合わせが注目されている。n型ではMg(マグネシウム)-Si系が有望視されている。Mg-Si系は熱電変換材料の総合的な性能を示す無次元性能指数(ZT)が1.0と、Pb-Te系などに匹敵する性能を持つ。

 一方、課題となっていたのがp型だ。Mn(マンガン)-Si系がp型の特性を持つことが分かっていたが、従来のMn-Si系はZTが0.3~0.4と低いことから実用には向かないとされていた。そこで、東北大学教授の宮崎譲氏の研究室では、NEDOのプロジェクトの中でMn-Si系の性能向上に取り組んでいる。

 その成果として、Mnの一部をバナジウム(V)と鉄(Fe)で置換することにより、約530℃において出力因子(熱電変換材料の発電量を示す指標)が2.4mW/K2mと、従来の1.6~2倍に相当する新材料「(Mn0.93V0.03 Fe0.04)Si1.7」を発見した(図2)。置換によってMn-Si系の低性能の原因の一つだった「モノシリサイド相」と呼ばれる物質の生成が抑制されるとともに、正孔(ホール)の数が3倍に増えて導電性が高まるという。新材料はZTが0.7を超えるものが得られているが、熱電変換材料の実用化に必須とされる1.0には達していない。しかし、置換する元素の種類や量などを調整することでZTが1.5を超えることも不可能ではないとする。

図2 東北大の宮崎研究室が開発したMn-Si系のp型新材料
図2 東北大の宮崎研究室が開発したMn-Si系のp型新材料
マンガンの一部をバナジウムと鉄で置換することにより、約530℃において従来のMn-Si系の1.6~2倍の出力因子(熱電変換材料の発電量を表す指標)が得られることを確認した。
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