
経路案内の矢印や人の飛び出しを警告するイラストなどを、車両前方の風景に重ねて表示するAR(拡張現実感)―。カメラの普及を追い風に、2017年にクルマで採用が始まる。運転中の安全性や利便性を高められるからだ。自動運転技術の進化に合わせて、2020年ごろから一気に採用が広がりそうだ。開発競争の最前線を報告する。
ドイツContinental社は2017年に、ARを採用したHUD(ヘッド・アップ・ディスプレー)を量産する計画だ(図1)。欧州の高級車メーカーが採用する見通しである。さらに日本の部品メーカー各社が、2020年前後の実用化を目指して開発に力を入れている。
ARは、運転者が見ている風景に文字やイラストなどを重ねて表示する技術。HUDで生成した映像をフロントウインドーに反射させ、その映像と対象物の位置を重ね合わせるように制御して実現する。対象物の認識にカメラを使うのが、従来のHUDとは異なる。運転者が前方に向けた視線を動かすことなく、必要な情報を得られるため安全になる。
ARの採用が始まる背景にあるのは、HUDに加えて、運転支援システム用のカメラが急激に普及してきたことだ。HUDで表示する映像の位置合わせに、カメラの認識結果を使い回せる。高価なカメラを新しく追加することなく、ARを実現する環境が整ってきた。
自動車メーカーも準備を進めている。例えばドイツBMW社は2016年に、ARを積極的に活用したコンセプト車を発表した(図2)。見えにくい場所から接近する自転車に重ねて、注意を喚起するイラストを映す。さらに、自転車が動くのに追従してイラストを動かすことも提案する。日系メーカーではトヨタ自動車やマツダが安全性の向上に着目して、ARを採用する検討を始めた。
2017年に始まるクルマのARは、走行車線を案内するなどといった簡単な表示にとどまるだろう。2020年ごろになると、安全に大きく貢献する情報をARで映し始める。例えばぶつかる危険性がある障害物に重ねて警告用のイラストを映し、注意を喚起する。
自動運転技術がさらに進化して人が運転しない時間が長くなると、ARを使った新しいビジネスが始まるかもしれない。
例えばゲーム。ARを使ったスマートフォン用のゲーム「Pokémon GO」のクルマ版だ。自動運転中の前方の風景にゲームのキャラクターを重ねて映し、移動時間を楽しくする。広告を配信することも考えられる。移動中の周囲にある店舗の位置に合わせて、その店舗に関わる広告を表示するといったものだ