ホンダがエンジンサプライヤーとして2015年にF1に復帰した。しかし、二つのモーターを使った複雑なエネルギー回生システムが求められる、2014年からの新しいパワートレーンでは、苦戦が続く。最新のF1レギュレーションでは何がポイントなのか、ホンダF1の課題を探る。

ホンダがF1に帰ってきた。2008年にリーマンショックの影響を受けて、活動を終了して以来、7年振りの参戦だ。ただし、2008年までの第3期といわれる参戦では車体からエンジンまで同社が手掛けていたのに対し、今年は英国のMcLarenチームにエンジンを供給するという形になる。
規模を縮小したことで、ホンダの負担は軽くなった。全てを運営しようとすると、トップチームではスタッフが500人を超え、年間予算も400億円は下らないとされる。一方、エンジンだけの供給であれば、スタッフの数はずっと少なくできる。
本田技術研究所の専務でF1プロジェクトの総責任者を務める新井康久氏は「詳しくは言えないが、何十人から何百人の間」といい、100人程度の規模とみられる(別掲記事参照)。もちろん、それだけのスタッフをレース専用に抱えるというのは、並みのメーカーではできないことだ。それでも、ホンダがF1レースにこだわるのは、二つの目的があるからである。
一つは技術を磨くこと、もう一つは人材を育てることだ。新井氏は「レギュレーションで、非常に高い熱効率が求められると同時に、これまで以上の速さで競争が行われている。エンジンの熱効率は軽く40%を超えており、技術そのものの戦いは本当に厳しい」とする。
また、「2.4Lのエンジンを使っていた時代に比べると燃料使用量は2/3位に減っている。さらにクルマが100kg近く重くなっているのに、ラップタイムはほぼ変わらない」という。
特に、昨シーズンからは、従来の運動エネルギー回生装置「KERS」に、新たに排気エネルギーを回生するモーターを追加した新しいエネルギー回生システム「ERS」の装着が義務付けられた。これによって、通常のハイブリッド技術だけでなく、熱エネルギーのマネジメントも必要になった。
将来、量産車がエンジンの熱効率を上げていくには、排気エネルギーの回収は不可欠だ。次世代技術をここでものにできれば、量産車開発へも生かせるという読みがある。
二つめが、“ひとづくり”である。レースは現場で次から次へと問題が持ち上がる。従って、開発スタッフが判断するスピードが加速度的に高まる。「こうした人材が増えることで、経営や技術開発のスピードが高まっていく。判断できる人を増やしていく」(新井氏)のがもう一つの狙いだ。