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無線信号を30m飛ばせる

 開発した振動発電デバイスはエレクトレットを使う。エレクトレットとは、永久磁石が磁場を帯びているのと同様に、永久分極により電場を帯びた材料である。永久磁石を動かし電磁誘導で発電するように、エレクトレットを動かし静電誘導の原理で発電機を構成できる。

 今回、重りを含む数mm大の構造体で回路を作った。2つの櫛歯形構造体を対向させ、振動で動くことにより生じるクーロン力の変化で各構造体内部の電子が移動(電流が発生)するようにしている(図1)。同様の原理による開発成果は過去にあったが、得られる電力が数十μWにとどまっていた。大きな潜在需要があるとみられる無線IoT(Internet of Things)端末の電池を代替するには、多くの用途で十分ではない。

図1 1G弱の振動から1mW強を発電
図1 1G弱の振動から1mW強を発電
開発した振動発電デバイスの発電特性と構造の模式図。発電特性は、周波数500Hzの振動を、加速度を変えて測定した。(図:鷺宮製作所など1)
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 1mW級にできれば、工場内のモーターなどの回転機器による振動、道路高架の振動などをエネルギー源にした電池レスのIoT端末への応用が視野に入る。1mWあれば数百MHz帯を搬送波に使うサブGHzなどの無線通信で電波を30m飛ばせる計算だ(図2)。

図2 10mW級が視野に
図2 10mW級が視野に
エレクトレットによる振動発電技術の進化を示した。従来技術では、既存の研究発表成果を対数グラフ上に直線で外挿している。今回の技術は同じ傾きで10倍、次世代技術は同じ傾きでさらに10倍の発電能力になるようにシフトさせた。今回の技術で2020年の開発目標としていた能力を既に達成した。研究を統括している年吉洋氏(東京大学生産技術研究所教授)は、イオン液体による次世代技術で2020年に10mW以上の実現も十分可能とみている。なお、エレクトレットの形成などは、静岡大学の橋口原氏(電子工学研究所教授)、デバイスの設計試作は鷺宮製作所が担う。一連の成果は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託により2016年から実施中の「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト」の1テーマ「超高効率データ抽出機能を有する学習型スマートセンシングシステムの研究開発」(技術研究組合NMEMS技術研究機構が受託、研究開発責任者は東京大学生産技術研究所教授の藤田博之氏)で使う。(図:東京大学など)
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 振動発電には、圧電材料を使う方式、電磁誘導を使う方式、これらを併用した方式がある。これらは、やはり発電能力が十分ではないか、身近にはないような強い振動を与えなければ発電しないなどの課題がある。