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 従来のLiイオン2次電池は、金属箔に電極材をスラリーにして塗布し、乾燥、加圧する工程によって電極構造を形成している。これに対して、新型Liイオン2次電池は、電極構造体および集電体、セパレーターのすべてを樹脂で構成できるのが最大の特徴である。

 そのため、フレキシブルな電池を作製したり、電極の面積を容易に大型化でき、大きなセルを実現したりすることが可能だ。こうした特徴を生かし、三洋化成工業では、ウエアラブル機器や定置用大型蓄電システムといった用途での商業化を狙っている。

活物質を電解質ゲルで覆う

 三洋化成工業は、技術の詳細を明らかにしていない。だが、同社が出願している多数の特許から新型電池の技術的な特徴を読み解くことができる。電極構造のカギとなるのは「コア-シェル型電極材料」だ(図1)。

図1 コア-シェル型の電極構造を実現
図1 コア-シェル型の電極構造を実現
コア-シェル型電極材料の断面を示した。コア部は直径1~20µmの電極活物質、シェル部は厚み0.1~5µmのゲル状電解質。シェル部には導電性材料を含む。(図:特願2015-560934(WO2015/118988)を基に本誌が作成)
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 電極活物質をゲル形成性高分子で覆ったもので、被覆する高分子層はLiイオンと電子の導伝性パスとなる導電性材料を含む上、電解液を含侵させることができる。電解液を含浸させた正・負極の電極材はゲル状で供給することが可能なため、集電体に電極材を塗布することで、電極を形成できてしまう。三洋化成工業は高吸水性高分子を最初に商業化した企業であり、得意の高分子技術を応用したものとみられる。

 こうして形成した正極・負極間にセパレーターを介したものが、新型Liイオン2次電池の基本的な単セルとなる(図2)。電極の厚みは1~2mm。厚み200µm程度である従来の電極に比べて厚くできるので、エネルギー密度の向上を見込めるとする。

図2 セルの構造体をすべて樹脂に
図2 セルの構造体をすべて樹脂に
樹脂集電体とゲル状の電極材料、セパレーターを、すべて樹脂で構成できる。電極が厚くてもLiイオンや電子が移動しやすくするため、導電性繊維などを加えてエネルギー密度を高める特許を出願している。(図:特願2015-553514(WO2015/093411)を基に本誌が作成)
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図3 乾燥・加圧工程を省く
図3 乾燥・加圧工程を省く
正極用の樹脂集電体上に枠体を作り、その中に正極の電極材、セパレーター、負極の電極材、樹脂集電体を充填・積層することで、基本構造となる単セルを製造できる。従来のLiイオン2次電池に必要だった乾燥や加圧の工程は不要で工場の省スペース化が可能だ。(図:特願2015-160757(特開2017-041310)を基に本誌が作成)
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 電極材の形成時に高温・高圧にする必要がないため、電極の集電体には従来のような金属箔(Al箔、Cu箔)ではなく、フィルム状の導電性樹脂を用いる。ポリプロピレンなどにアセチレンブラックといった導電性フィラーを入れることで、電気抵抗を下げて集電体の役目を果たせるとしている。

 こうした電極材料と集電体の革新によって製造方法を一新できる。スラリー乾燥のための数十m規模の乾燥工程や、電解液含浸後に充放電を繰り返す、ガス抜きを兼ねた「エージング」の工程といった従来のLiイオン2次電池で当たり前だったものが不要になる。新型電池では、電解液を含んだゲル状の正極の電極材を集電体に充填し、セパレーターを配置した後、同じくゲル状の負極の電極材を充填するだけで、基本的なセルを製造できる(図3)。

 さらに、セルを積層した電池モジュールも、従来とは異なる特徴を備える。新型電池は、基本のセルを順に積層すれば、電池モジュール内で直列接続となって高電圧化できる、いわゆる「バイポーラ型」の電池を実現できる。(図4)。従来の電池はセル同士を外部で直列接続し、充放電時にはセル間の電圧バランスを取る必要があった。今回の電池はこうした複雑な接続部品などが不要になるため、電池モジュールとしての小型化が図れるという。

図4 積層すれば直列接続のバイポーラ型に
図4 積層すれば直列接続のバイポーラ型に
セルを順に積層すれば、そのまま直列接続となる。図3の工程で作ったセルを積み重ね、上下に板状の電極引き出し部を取り付ける。セル部分では電流は集電体の垂直方向に流れるため、面積が大きく、大電流化が可能。(図:特願2016-223965(特開2017-103219)を基に本誌が作成)
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