読んでもいない本に、考えを方向付けられるのだから不思議なものである。大学の生協に平積みになっていた『思考のための道具』 。ハワード・ラインゴールド氏がコンピューターの開発史を綴った書籍だ。その後ずっと、人の思考を強化するのがコンピューターの役目と信じ込んでしまったのは、手にとってパラパラとめくっただけの同書の見出しがよほど印象に残ったのだろう。
30年近く前の記憶を呼び覚ましたのは清水亮氏の発言である(インタビュー記事)。「コンピューターって、人間の思考能力を拡張するために作られているはず」と言われてハッとした。パソコンの成長期には確かにあったこの目標は、いつしか霞んでしまったようだ。