
ドイツAudi社は2017年7月、自動運転技術の水準で「レベル3」を実現する高級セダン「A8」を投入すると発表した(関連記事)。自動車メーカーがこれまで踏み込まなかった新しい境地を切り拓く。
既に多くある「レベル2」の車両とAudi社のA8を比べると、“自動”で走れる範囲は大きく変わらない。ともに、自動車専用道路の同一車線内で車両の加減速と操舵を制御するもの。しかもA8の場合、車速60km/h以下に限定して渋滞中の利用にとどめる。一見すると、高度なレベル2の車両に劣る。
A8のレベル3がレベル2の車両と大きく異なるのが、自動運転中であれば周囲を監視する必要がないことだ。Audi社はテレビを見ることなどを許す。その上で自動運転中の事故について、Audi社が「責任を負う」と断言した。レベル2は「運転支援技術」であり、事故の責任は運転者にある。
レベル3とうたうことは、メーカー側のリスクが極めて大きくなることを意味する。日系メーカーの技術者は、「実質的にレベル3の水準に達しても、レベル3と言いたくない」と語る向きは多い。Audi社に、「無謀」と指摘する技術者がいるくらいだ。
ただユーザーの立場なら、渋滞中に運転以外のことをしたいと思うのが普通だ。そんなユーザーの期待にいち早く応える態度は、メーカーとして正しい。
レベル3の機能の投入は2018年以降。まずはドイツに限る。発売して早々に事故が起きれば、自動運転技術への信頼は失墜しかねない。無事故で走り続ければ、同技術への評価は高まるだろう。だがメーカーに責任のない「もらい事故」まで完全に防げない。A8の出来映えに加えて「もらい事故」に合わない“運”が、世界の自動運転技術の行方を左右する。