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あえて手作業で経験を積む

 では、高度な技能者をどのように育てていくのか。その1つが、手作業ラインの活用だ。現在、生産性を向上するため、多くの工程・作業が自動化されている。しかし、トヨタでは全ての工程をあえて手作業で行うラインを通常の生産ラインとは別に用意し、修行の場としている。その経験の中でものづくりの原理原則を学び、それを現場で応用する力を養う。改善の積み上げが、匠の技能として身につく(図2)。こうして高度な技能を身に付けた匠の動きを、ロボットやからくり機構などに置き換えるから、優れた自働化を実現できる。

図2 トヨタ自動車が考える「あるべき自働化の姿」
図2 トヨタ自動車が考える「あるべき自働化の姿」
トヨタ生産方式の柱の1つである「自働化」は、ロボットやITシステムを導入する前に人(手作業)によるつくり込みが不可欠。ものづくりの原理原則を知り、匠の技能として身に付けた上で自動化に取り組むべきだという考えだ。(トヨタ自動車の資料を基に日経ものづくりが作成)
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 これは、塗装や鍛造といった特定作業の技能だけではなく、実際の生産ラインの構築(つくり込み)にも適用できる考え方だ。同社では複数の工場から選抜した技能者でチームをつくり、実際のライン構築を任せる。海外工場でトラブルが起こった場合に派遣し、解決させることもある。現地では日本よりも不便が多く、自分で考えなくてはならない。そういった経験の中で、優れた技能を身に付ける。

 製品や生産技術の変化に応じて、求められる技能の質やレベルも変わってくる。「機械が自ら考えて進化するわけではない。人間が高い技能を持ち続け、常に機械よりも良い仕事をし続けることが必要だ」(河合氏)。定型の技能教育だけではなく、実務と関連させながら学んでいくことが大切なのだ。

ITに頼りすぎることへの危機感

 トヨタが技能者育成に力を入れている背景には、高度な技能者の質と量に対する危機感がある。河合氏は、日本で品質不正問題が相次いだことを受けて、自社工場の現場を改めて見直してみた。設備のIT化が進み、いたるところにセンサーが取り付けられている。「『(センサーなどが)付いていれば大丈夫』という気になっていないか」と感じたという。

 そのセンサーがなぜあるのか、壊れたらどうなるのか、「(現場の1人ひとりが)しっかり理解して腹落ちする必要がある」(河合氏)。「原点は技能」という信念が、トヨタのものづくり集団を貫いている。

参考文献
1)中山,「機械を進化させるのは人、難題を解決してこそ身に付く技能」▶日経ものづくり,2017年1月号,pp.50-52.