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ATL社製は生産時の混乱が原因か

 最初のリコール後、交換用に改良して生産された香港Amperex Technology(ATL)社製電池では、正極を外部へ引き出すための正極タブに「あり得ないレベル」(複数の電池技術者)の問題があった。

 正極タブは、電池セルメーカーの製造工程において、突起のある器具を使い超音波溶着するのが一般的で、ある程度の凹凸が出来る(図6)。事故の例では、この溶着による凹凸が絶縁テープを突き破って負極に接触するほど大きく、短絡したとされた。加えて、タブに絶縁テープが貼られていない場合があったため事故の発生確率が高まったとする調査結果が発表された(図7)。Samsung Electronics社が明らかにした不良率は全体で約100ppmなのに対し、1次リコール時点で公表した不良率は24ppmだった。

図6 正極タブの溶着部分
図6 正極タブの溶着部分
(a)Liイオン2次電池では、電極を外部へと引き出すためにタブを超音波溶着するのが一般的で、Galaxy Note7でも同様の方法を採用していた。(b)1次リコール後の事故では、この正極のタブ部分で熱暴走したケースが多く見られた。(c)調査では溶着部分の突起が大きいことが明らかになった。(d)正常品では、充放電により電極の膨張・収縮を繰り返しても不具合は発生しないが、(e)問題品ではタブの溶着部分の突起が絶縁テープを破り、負極まで達することで短絡したと推定された。(写真と図:(a)(d)(e)はSamsung Electronics社、(b)(c)はExponent社)
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図7 絶縁テープが貼られるべき正極タブ
図7 絶縁テープが貼られるべき正極タブ
事故の発生確率をさらに高めたと考えられるのが、正極タブへの絶縁テープの貼り忘れだ。絶縁テープがなければ最初から短絡しているはずで、製造段階で気付くのではないかとの見方もある。( 写真:UL社)
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 ATL社製電池の不良では、[3]のプロセスがぞんざいだったと推測される。「絶縁テープは50μmと厚いものが一般的で、それを突き破るとすれば凹凸が相当大きいことになる」(白方氏)。「絶縁テープは電解液との組み合わせにより粘着性が悪くなって付かない場合はあるが、事前の試験で分かる」(電池研究者)。つまり、工程条件の最適化がなされないままに突貫生産された可能性が高い。

 1次リコール前のATL社製電池では事故報告はなく、事故が起きたのは1次リコール後の改良品であることも、この見方を裏付けている*3。もともと、Galaxy Note7ではSamsung SDI社がメインサプライヤーで、ATL社は比較的少量のセカンドサプライヤーだったとされている。ATL社は米Apple社のiPhone向けLiイオン2次電池サプライヤーとして有名で、Samsung Electronics社とも取引実績があった。とはいえ、突貫生産では品質管理はおろか、最適な製造設備や材料などの入手ですら困難だったと疑われてもおかしくはない。

*3 Samsung Electronics社が製品の交換を打ち出したのが2016年9月2日、回収台数は約250万台、交換品がユーザーの手元に届き始めたのは9月19日。同事故について調べた韓国のITジャーナリスト趙章恩氏は「15日間で約100万台を生産した」としている。