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 約1年前のことである。入社7年目でトップクラスの営業成績を上げていたAさんが、筆者たちの部署に異動してきた。それまでのAさんの仕事は、医療関連製品を病院などの医療機関に売り込むことだった。Aさんは、顧客(医師など)が必要とする製品を的確に判断する製品知識と、顧客の懐に飛び込んで信頼を得るコミュニケーション力が抜きん出ており、それが彼の営業成績を支えていた。

未知なる仕事は困難だが…

 ところが、である。Aさんの異動後の新しい仕事は、従来とは全く異なるものになった。重大な問題が起きている(もしくは予見される)事業やプロジェクトに対し、そのビジネスプロセス全体を分析した上で改革し、持続的な成長の軌道に乗せるという仕事だ。当然ながら、対象となる製品・サービス分野は多岐にわたり、ビジネスプロセスも開発、製造、営業、マーケティング、一般業務などさまざまだ。しかも多くの場合、複数のプロセスが組み合わさっている。

 Aさんがこれまでやってきた仕事は「特定の商品を特定の顧客に売る」というシンプルな構図だが、これからの仕事は「さまざまな製品・サービス、さまざまなプロセス、さまざまな人と現場」を扱う複雑なものである*1。未知なる仕事に踏み込むというのは必然的に新たな挑戦となる。その点でイノベーションと共通するといえる。

*1 筆者たちの部署は、問題を抱える事業に対して基本的には1人の担当者を決める。担当者は、現場と協力しながら現状の問題点を明確にし、その根本原因を取り除く業務改革を成し遂げなければならない。

 Aさんは社内公募制度に応募し、本人の希望で我々の部署に異動してきた。そのため、新しい仕事に対して情熱も意欲も持っていた。しかし、新しい仕事に不可欠なデータ解析のスキルを身に付ける機会がなく、未習得の状態だった。すぐに大きな壁にぶつかった。

 データ解析のスキルとは、人・物の動きや現場で起きている現象などを、要素に分解してデータ化し、そのデータを解析することによって事業の問題点を明確にしていくスキルのことだ。問題を論理的に解決する際、最初の段階で必要となる。

 Aさんはその時、ある工業製品のプロジェクトを担当していた。同僚がサポートし、粘り強く丁寧にデータ解析の手法をコーチングしたが、スキル向上は遅々として進まず、Aさんの情熱と意欲は空回りするばかりだった。担当プロジェクトの業務革新も一向に進まない。その上、本人が大きく落ち込んでしまった。「これまでトップセールスマンだった自分が、ここではお荷物になっている」と感じているようだった。