NTTと東京理科大学は2016年4月11日、窒化ガリウム(GaN)半導体においてアト秒(10−18秒:as)周期で振動する電子の動きを観測することに成功したと発表した(ニュースリリース)。観測された振動周期は860asに達し、周波数は1.16ペタヘルツ(1015Hz:PHz)に相当する。
物質中に存在する電子の「動き」は、一瞬だけ輝くレーザー光(光パルス)をカメラのストロボのように使ってコマ撮りすることで観測できる。今回、NTT物性科学基礎研究所が開発した世界最短級のパルス幅を持つ単一アト秒パルス光源を使ってGaN半導体内部の光誘起に伴う電子の振動現象(双極子振動)を計測することに成功した。
今回の実験では、過渡吸収分光法を用いて、双極子振動により変化するアト秒パルスの吸光度(吸収率)を測定した。双極子振動を最適に捉えるには、アト秒パルスの光子エネルギーを低く(波長を短く)抑える必要があることから、さまざまな波長帯域を選択的に発生させることが可能なDouble Optical Gate(DOG)法を用いて、光子エネルギーを低くした真空紫外領域(中心光エネルギー:20eV、波長:60nm)の単一アト秒パルスを発生させた。
半導体デバイスの動作原理は、電界によって引き起こされる半導体電子系の高速の物理現象をもとに構築されている。本来の電子の応答はアト秒の時間領域に達するが、現在利用されている半導体電子系の操作時間はピコ秒(10−12秒)程度に留まる。半導体電子系の超高周波の電子振動は、将来のデバイス動作の基礎原理につながる可能性があり、更なる解析を行う予定という。
また、今回計測した「分極」に伴う電子振動は、反射・吸収・屈折・回折・光電流・光放射といった多種の物理現象を引き起こす。これらを半導体の新たな機能として応用に向けた研究開発を続けていく予定。
今回の成果は、英国科学誌「ネイチャー・フィジックス」で4月11日(英国時間)に公開された。
掲載当初、「過渡吸収分光法」を「過度吸収分光法」と掲載しておりました。お詫びして訂正します。現在は修正済みです。[2016/04/18 14:26]