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図1 理化学研究所のスーパーコンピューター「Shoubu(菖蒲)」
図1 理化学研究所のスーパーコンピューター「Shoubu(菖蒲)」
この上に猫の小脳に相当する計算モデルを実装した。
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 電気通信大学 大学院 情報工学研究科 情報・通信工学専攻 助教の山﨑匡氏は、約10億個のニューロンから成る小脳の計算モデルを理化学研究所のスーパーコンピューター「Shoubu(菖蒲)」上に実装し、リアルタイムで動作することを確認した(図1)。猫の小脳に相当する規模で、小脳のシミュレーションモデルとしては、世界最大・最高速という。理化学研究所が2016年6月8日に開催したシンポジウム「スーパーコンピュータHOKUSAとShoubu、研究開発の最前線」で発表した。

 Shoubuが搭載するPEZY Computing製のアクセラレーター「PEZY-SC」を1008個利用した。実装したモデルを使って、格子状の画像が左右に動く様を動物の目に見せると、それにつられて目も動く運動(視機性眼球運動, OKR:OptoKinetic Response)を再現できることを確認している。

 今後は学習機能などを実装していく計画である。動物に対して上述の画像を見せ続けると、小脳がOKRを学習して画像を見せない時にも目が動くようになる。山﨑氏らはOKRが小脳に記憶として定着する様子を説明する理論を提唱しており1)、2)、GPUに実装した小脳モデルの動作が、実験結果と整合することを確認済み。ただし、これまでGPU上で実現したニューロン数は最大100万だった。山﨑氏はGPU上に実装した小脳モデルを使って、バットを持ったロボットに球を打ち返すタイミングを学習させる実験も手掛けている3)。GPUよりも大規模な小脳モデルを使うことで、さらに複雑な動作をさせられるという。

 PEZY-SC上への実装はかなり苦労したようだ。PEZY Computingが用意しているOpenCLのサブセットを使って移植すると動作させるまでは比較的容易だが、性能を引き出すためのチューニングにかなりの時間を要した。2015年秋に最初に実装した時は、PEZY-SC4チップで10万ニューロンのみだったという。その後、2015年12月末に1チップあたり100万ニューロンに達し(以上は高エネルギー加速器研究機構の「Suiren(睡蓮)」上での成果)、2016年4月に10億ニューロンで動作させた。

 それでもPEZY-SCを選んだのは、今後の高速化や規模拡大も考慮した結果という。PEZY Computingが2017年にも実機に搭載する見込みの次世代チップ「PEZY-SC2」を利用すると、人間の小脳の再現も視野に入るとしている。PEZY-SC2は4096コアを集積し、DRAMとの間を高速な磁界結合インタフェースで接続する(関連記事)。山﨑氏はより大規模な小脳のモデルを作成することで、神経科学の研究に資するだけでなく、リハビリのシミュレーションやロボット制御に応用する道も開けると見ている。

参考文献
1)電気通信大学、「小脳における記憶の定着過程の理論を提唱 〜「一夜漬けより毎日コツコツと」の仕組み解明へ〜」、2015年3月、 http://www.uec.ac.jp/about/publicity/media_release/pdf/20150302.pdf

2)Yamazaki, T. et al., "Modeling memory consolidation during posttraining periods in cerebellovestibular learning," Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America, vol. 112, no. 11, pp.3541–3546. Mar. 2015.

3)Yamazaki,T. et al., "Realtime cerebellum: A large-scale spiking network model of the cerebellum that runs in realtime using a graphics processing unit," Neural Networks, vol. 47, pp.103–111, November 2013.