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 「とてもあれでは改革は進まないですよ」。あるコンサルタントに某大手小売業の営業改革の進ちょくを尋ねたところ、首を振って、こう答えた。改革の「スローガン化」の兆候があちこちに見えるからだという。

 この企業では、改革を先導する手腕を期待して、新社長を抜擢した。ところが、「いざ社長になると役員・部長クラスを説得して動かすようなところがなく、すっかりおとなしくなってしまった」のだという。

 役員・部長クラスが、社長の意志とは別な方向に、勝手に改革課題を解釈してバラバラに行動するのも目につくという。しかし、これらの問題が生じる原因に、「トップダウンで現場に示された改革の具体案が、首尾一貫せずバラバラな要素が詰まったもので、思いが伝わってこない」こともある、とコンサルタントは付け加える。「どのようにブランド力を向上させて、消費者から認知されたいのか」というビジョンがトップ自身、鮮明でないことが根本的な問題なのかもしれない。

 この小売業者とは好対照に、方向性や信念を明確に伝えるのが上手だったトップとして思い浮かぶのは、V字回復に取り組んでいた当時の日産自動車のカルロス・ゴーン社長だ。当時、ゴーン氏の語録は多くの新聞・雑誌で紹介された。筆者もこの文章を書くにあたって当時の雑誌記事を読み返してみたが、メッセージのシンプルさ、明快さはやはり卓越している。短い言葉にもかかわらず、当人の哲学や信念がよく伝わってくる。例えば、日経ビジネス2003年1月13日号の特集『ゴーンが語る再生の法則』によれば、販売奨励金が少ないと嘆く販社社長に「子供に、小遣いをやるから勉強しろと言う親はいい親ですか。子供を健全に育てるのは小遣いじゃない」と言ったという。実にわかりやすい言葉だ。

 抵抗勢力に対峙するとき、改革リーダーが見直すべき大きなポイントは、「明快なビジョンや信念を伝えられるかどうか」だ。そして重要なポイントは、もう1つある。それは「抵抗する人が納得できるポイントを適切に探し出せるかどうか」だ。

 例えば日産自動車の場合、ゴーン氏は販売現場の意見にも耳を傾け、売り場作りを共に考えて販売店を育成しようという姿勢を行動で示した。2カ月に1回、ディーラーの現場と意見交換を実施したし、ほかの役員にもディーラーの店舗を回らせて、顧客満足度を上げるためにどうすれば良いかというレポートを書かせたりもした。また、店舗の状況をチェックして店長に指導するスーパーバイザー制度を立ち上げて、日産の販売部門と定期的に情報交換するといった活動も開始した。

 実際に販売店を育成しようという姿勢が伴うことで、ゴーン氏も販売現場から納得を得られわけだ。

 では、郵政公社の民営化問題はどうだろう。「小さな政府にするためには民営化すべき」という主張は明快で分かりやすい。だが、あれだけ抵抗を受ける羽目になった一因は、民営化してどう変わるべきか、郵便局の現場の不安をケアしきれなかったことにもあるのではないだろうか。

 例えば、定形外郵便の仕分け作業だ。手書きのあて名を目で読み取って手作業で仕分けして袋詰めするというような、宅配便業者に比べて著しく原始的な業務フローを今後はどうしていくのだろうか。たとえトヨタ流の現場改善を重ねても、あのままでは効率化には限界がある。こうした新しい業務の仕組み作りの部分に推進派が思いを巡らし、ITを用いた業務効率化のシナリオを描けていたなら、郵便局の現場に事前に民間事業者との競争に自信を持たせることもあながち不可能ではなかったかもしれない──。と、ついつい考えてしまう。もちろん抵抗勢力の事情を勉強しているわけではないので、机上の空論と一笑に付す方もおられるかもしれないが。

 こうしたわけで、「抵抗勢力をよりよく理解して互いが納得できるポイントを考える」スキルを啓もうする記事があれば読まれるのではないか──そう考えた。いま外部の著者に秋から新連載の打ち合わせを進めている。といっても、決して眉に皺寄せて読むものではなく、平易な題材から気軽に読めるものになる予定だ。抵抗勢力とのコミュニケーションに疲れた時、ふと読んでいただければと思っている。乞うご期待。