具体的には全社員の約8割に当たる約850人にウィルコム(旧DDIポケット)のPHS端末を配布し,すべての端末で定額制の音声通話プラン「ウィルコム定額プラン」を契約。PHS間ではいつどこにいても定額で通話できるようにして,急増するモバイルの通話コストを抑え込んだ(図)。 しかも同社は,取引先やグループ会社にもウィルコム定額プランの利用を促し,無料通話の対象が約2000台に届こうとしている。現時点で,これほど大規模に無線の音声定額サービスを利用している企業は珍しい。 固定の内線網とは別にPHS採用企業が電話のコストを削減する手法としては現在,IP電話を導入するのが一般的である。寺岡精工も例外ではない。東京都大田区の本社と全国約30カ所の拠点間は,フュージョン・コミュニケーションズの法人向けIP電話サービスを導入。固定の内線網は既に構築を終えている。
だが,同社では営業や製品の保守などで外出機会の多い社員が8割を占める。社員同士の連絡手段として携帯電話などモバイル通信の利用頻度が高く,固定網のIP化だけでは電話コストの削減に限界がある。PHSの音声定額サービスは同社にとって,「モバイル通信のコストを徹底的に抑えるための切り札」(寺岡精工・情報システム部の湖口康広氏,写真)となっているのだ。 携帯料金の個人負担に不満実際,寺岡精工にとってここ数年,膨らみ続けるモバイル通信関連のコストは頭の痛い問題になっていた。 同社の顧客はスーパーマーケットや郵便局など全国津々浦々に広がっており,営業部員が外出している時間も長くなりがち。顧客はもちろん,営業所などとの連絡にも携帯電話を使う機会が多い。 かつて同社がとっていた対処法は,個人で契約している携帯電話への補助金として一人5400円を支給するというもの。管理職や携帯電話の利用頻度が高い社員など約150人が対象だった。そのほかの社員にもポケベルや,会社との連絡用に着信課金用の公衆電話カードを貸与していた。それでも大半の社員は,業務連絡のための通話料を個人で負担せざるを得ず,不満の声が上がっていた。 保守作業中に“電話相談所”営業部員と並んで製品の保守作業員のモバイル通信の使い方も,コストが増加する要因となっていた。 この通信コスト増の背景には,コール・センターの運営方法を刷新したことがある。もともと同社の製品の修理・保守業務では,各営業所の作業員がすべての製品を担当していた。ところが同社の扱う製品の種類が多様化したため,一人の作業員が取り扱う機器の数も急増していた。 また,電子はかりなどは耐用年数が長い。保守作業員は新製品だけでなく,かなり以前の製品もサポートする必要がある。作業員への負担が増えるにつれて,顧客への迅速なサポートが困難になっていた。 そこで寺岡精工は,各営業所から古い製品にも詳しい熟練の社員を,東京・大阪・福岡の3拠点に集約。これらの主要拠点では,コール・センターとして顧客からの問い合わせを24時間体制で受け付けると同時に,保守作業員の業務を後方支援する役割も担うことになった。例えば作業員が顧客の元で製品を修理している最中,コール・センターにいる熟練の社員に相談するという利用法である。 だがこれが通話コスト増に直結。着信課金サービスを利用していたため個人が料金を負担することはなかったものの,同社が負担する通話料がかさんできた。 このように営業部員と保守作業員が使うモバイル通信サービスのコストは,2002年時点で月間合計約500万円にも達していた。 作業状況をオンラインで参照しかも寺岡精工は,さらなるコスト増の要因も抱えていた。同社は2000年から,保守作業員の作業状況をリアルタイムに把握して顧客に派遣するシステム「SSWEB」を運用中。これを本格利用するために,モバイル通信環境を強化する必要が出てきたのだ。 SSWEBは,保守作業員がパソコンや手持ちの携帯電話のWebブラウザから,業務の進ちょく状況に応じて「移動中」,「作業開始」,「作業終了」などのステータスを反映する。 コール・センターでは顧客からの電話を受けた際,SSWEB上に反映されている保守作業員のステータスを参照。空いている作業員を即座に把握して電子メールを送り,顧客の元に派遣する仕組みだ。 ただし保守作業員の一部が個人でiモード携帯電話などを利用していたほかは,営業所のパソコンで作業状況を入力していただけ。このため,コール・センターではリアルタイムで作業の進ちょく状況を管理できていなかった。 料金安いブラウザ端末,PHSを選択SSWEBをリアルタイムの保守作業管理システムとして活用するために同社が考慮したのは,すべての保守作業員がブラウザフォンを使うこと。その上で現場から作業の進捗状況を即座に報告する体制を整える必要がある。だがモバイル・コストの負担に悩む寺岡精工にとって,これ以上のコスト増は避けたかった。 通信コストを出来る限り削減しつつ,社員が使えるモバイル端末の台数を一気に増やせる方法はないか——。この相反する要求を満たすため,同社は2003年2月から,新たなモバイル端末を一括導入する計画をスタート。NTTドコモのiモード携帯電話など各社のサービスを検討したが,最終的にウィルコム(当時はDDIポケット)のブラウザ内蔵PHS「Air H″フォン」に白羽の矢を立てた。 当初,携帯電話ではなくPHSを採用する点について,社内から「サービス・エリアが狭いのではないか」という不安の声もあった。だが「SSWEBは,PHSの電波が届くエリアに入った際に使えばいい。緊急の要件なら,個人持ちの携帯電話を使う手もある」(湖口氏)と判断した。 こうしてウィルコムのPHSを本格導入したのが2003年7月。全国の営業と保守の社員700人を対象に端末を配布し,保守作業員全員が外出先でSSWEBを活用できるようになった。
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※本記事は日経コミュニケーション2005年8月1日号からの抜粋です。そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。 |
取引先含め定額PHSが2000台
通話料を削減,製品保守も迅速化---寺岡精工
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