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表●平成18 年度の予算概算要求に盛り込まれた主なI T 関連の政策
表●平成18 年度の予算概算要求に盛り込まれた主なI T 関連の政策
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各省庁から2006年度予算の概算要求が出そろった。特徴は、国策スーパー・コンピュータや次世代半導体の開発を通じた、ものづくりの強化を打ち出したこと。さらに人材育成など足下の課題にも取り組み、国内IT産業の地盤沈下に歯止めをかける。

 2006年度の概算要求は、国内IT産業の弱体化に対する、政府の危機感を反映したものとなった([拡大表示])。各省庁は、次世代半導体やスパコンといった分野で、合計5カ年に及ぶ大規模な開発プロジェクトを計画。同時に将来のIT分野を担う人材育成にも力を注ぐ。これらの施策を通じて、IT分野における国際競争力の再生を目指す。

世界最速の座を奪還

 文字通り世界一の座を奪取するための要求といえるのが、文部科学省による「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」である。世界最高レベルの演算性能を持つスパコン「京速(けいそく)コンピュータ(仮称)」を2010年度までに開発する。性能は最高10ペタFLOPS(ペタFLOPSは毎秒1000兆回の浮動小数点演算能力)で現在、国内最速の「地球シミュレータ」の250倍に相当する。同省は稼働までに900億円、その後の追加開発に260億円を投じる計画だ。2006年度は41億円弱を要求した。

 1台のスパコンにこれほどの費用を投じるのは、「ナノテクノロジやバイオテクノロジといった成長分野で国際競争を勝ち抜くには、研究の道具としてスパコンが欠かせない」(情報課の星野利彦情報科学技術研究企画官)からだ。政府がスパコンの需要を牽引することで、NEC、富士通、日立製作所など国産ベンダーの技術力を維持する狙いもある。

 地球シミュレータは、2002年3月の稼働から2年半にわたり、世界最速の座を維持したが、その後、米IBMの「BlueGene/L」に逆転された。世界のスパコン市場でもIBMの優位は明らかで、国産ベンダーは京速コンピュータ計画に失地回復の期待をかける。

 このほかに文科省は、ソフトウエア技術者不足への対策も概算要求に盛り込んだ。実践的なソフトウエア開発能力を備えた人材を増やすための、「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」である。スパコン計画と比べて地味だが、IT産業振興という狙いは同じだ。4年間実施する予定で、2006年度予算として10億円を要求している。

 同プログラムでは、国公私立大学とその大学院から8つの拠点校を選定。ソフトウエア工学やプロジェクト・マネジメントなど、産業界の要請に合ったIT教育のカリキュラムを整備し、開発現場をリードできる人材を育成する。

 これは、大学の情報処理教育が産業界の実情にそぐわないことを問題視する、日本経済団体連合会の強い要望に答えたものだ。日本経団連が今年4~5月に実施した調査によれば、情報処理の専門教育を受けIT企業に入った新卒者のうち、即戦力となるのはわずか1割。今の大学教育は企業の観点で見ると役に立っていないことになる。

 拠点校は、民間企業からソフトウエア専門家を講師に招く一方、第一線で働く技術者を再教育するなど、産業界と大学の接点としても活用する。研究活動も積極的に支援し、「世界に誇れる情報処理教育、研究の拠点を国内に育てたい」(専門教育課の一居利博課長補佐)という。

超微細加工で半導体産業を起死回生

 IT産業振興の本丸である経済産業省は、今回の概算要求に合わせ、これまで乱立していた研究開発計画を整理。重要性が高いと考えるテーマだけを「研究開発10傑」にまとめた。その筆頭が「次世代半導体材料・プロセス基盤技術開発」、通称「MIRAI(みらい)-III」である。半導体は、経済的な波及効果が高いのがその選定理由だ。ほかには情報家電、衛星、ロボット、ナノテクなどのテーマが並ぶ。

 MIRAI-IIIは、2001年度から実施している「MIRAI/MIRAI-II」の後継プロジェクトで、2年間実施する。回路幅45nm以下の超微細加工技術を、2010年ごろの実用化を目指して開発する。費用は、2008~2010年度に実施する「MIRAI-IV」と合わせて5年間で1000億円を予定しており、このうち500億円を国が、残りは半導体メーカーや製造装置メーカーが負担する。2006年度の概算要求にはMIRAI-III単独で60億円を盛り込んだ。さらに、生産設備に不可欠なマスクや露光装置の開発プロジェクトを加えて、半導体分野で100億円を要求する。

 90nm(ナノメートル)、65nm、45 nm、30nmと微細化が進むにつれて、技術開発は加速度的に困難になっていく。経産省は「単独のメーカーでは開発が難しい先端材料・プロセスについて、産官学の総力を挙げて開発する」(情報通信機器課の藤原達也課長補佐)としている。

 同省は、オープンソース・ソフト(OSS)やIT人材の育成といった重点分野については、従来のプロジェクトを来年度も継続・強化する。

 商用ソフトに比べてシステム構築のノウハウが蓄積されていないOSSの欠点を補うため、2006年春、情報処理推進機構(IPA)に「OSSセンター(仮称)」を開設。同センターでは、OSSのベンチマークや互換性評価を実施したうえで、その情報をデータベース化しWebサイトで広く公開していく。

 人材育成では、2004年から3年間の計画で実施中のIT人材教育プロジェクト「産学協同実践的IT教育基盤強化事業」を継続し、2006年度は4億円弱を要求する。拠点校を選ぶ文科省の施策とは異なり、経産省の場合は、授業のテーマ単位で公募をかける。

「ボット」対策を強化

 産業振興に直接関係ない施策では、総務省の情報セキュリティ施策「ICT(情報通信技術)を活用した安心・安全への取り組みの推進」が注目される。概算要求の規模は137億円。同省はこの取り組みのなかで、暗号通信の研究やOSのセキュリティ評価基準策定など、多くのテーマに取り組む。

 同省が新たに力を入れるのが、昨年から流行しはじめた「ボット」と呼ばれる不正プログラムの撲滅への試みである。ボットはパソコンやサーバーに感染し、利用者の知らない間に、スパムメールを中継したり、別のサイトへの不正アクセスの踏み台にしたりする。

 同省は「ハニーポット」と呼ぶ、おとり用サーバーを多数設置し、そこで得た情報をセキュリティ関連ベンダーに提供する。今後5年間実施する計画で、2006年度分としては13億円弱を要求した。

 総務省がボット対策に乗り出す背景には、「多額の費用がかかるため、ウイルス対策ソフトやセキュリティ機器のベンダーさえ、1社ではボットの活動実態を十分に把握できない」(情報セキュリティ対策室の高村信課長補佐)という現状がある。経産省と協力してボット対策ソフトを作成し、Webサイトで配布する計画もある。

 政府のIT予算は例年1兆3000億円前後で、国家予算の約1.6%に当たる。その多くが継続中の案件や既存の情報システムの運用・保守に当てられており、新たなプロジェクトに割かれる予算は少ない。これから年末にかけて財務省との折衝に臨む、IT分野への投資の重要性を訴えて予算獲得を目指す。