米オラクルは米国時間の9月12日、CRM(顧客関係管理)ソフト最大手の米シーベル・システムズを買収すると発表した(参考記事)。米国のIT専門Webサイト上では、有識者や一般IT業界人によるコメントが飛び交っている。
オラクルの買収価格は、約58億5000万USドル。この巨大買収はいったいオラクルに何をもたらすのだろうか。
IT専門情報サイトの「Tom's Hardware Guide」は、オラクルは今回の買収で、シーベルの340万ユーザーをまるまる獲得することになると伝えている。オラクルは独SAPとCRM製品分野で十分に対抗できるだけの利用者規模に到達したわけだ。
さらにTom's Hardware Guideは、「オラクルがシーベルを買収したことにより、米ライトナウや米セールスフォース・ドットコムの製品など、他のCRMソフトに切り替えるシーベル・ユーザーが増えるのではないか」と予測している。
米国では、オラクルはASP方式で利用している顧客に対して、ユーザー数が増えると通常のソフト・ライセンスを購入するよう誘導している。こうしたやり方を快く思わないユーザーが、しばしば見かけられる。それがCRM製品各社の顧客獲得競争をより過激なものにしているのだ。米マイクロソフトは自社ソフト製品「CRM」(日本では販売していない)をASP方式により提供すると発表しているが、これはその傍証ともいえるだろう。
シーベルは米IBMと提携しているが、データベース・ソフトで「IBM対オラクル」という図式がある以上、シーベルと米IBMの関係が大きく変わることも十分に予想される。
頻繁な買収劇は、ユーザーに混乱を引き起こす。日本時間の9月15日現在、オラクルのCRM製品分野のWebページには、オラクル製品と、ピープルソフトの製品と、JDエドワーズの製品が並んでいる。
オラクルは2005年1月に米ピープルソフトの買収を完了した。この時、ピープルソフトは過去に買収したバンティブとJDエドワーズの製品の統合作業を進めている最中だった。ちょうどピープルソフトの製品にバンティブの製品を統合した「PS8CRM」というモジュールを製品化した、というタイミングである。
ユーザーはベンダーの買収劇に混乱している。おちおちソフトを購入していられない、というのが現状だ。
ソフト・ベンダーは下手に買収に動けば、せっかく築いてきたブランド・イメージを傷つけてしまう。オラクルは膨大な労力がかかるであろう製品の統合をなるべく素早く済ませたうえで、旧製品のサポート・サービスを徹底するといった施策を徹底しなければ、ユーザーに「オラクルはCRM製品を販売しているのに、CRMを実践していない」と言われてしまうことだろう。
■多田 正行(ただ まさゆき)
1947年生まれ。ロッテリア、チーズブロー・ポンズ・ジャパン・リミティッド、日本タッパウェアなどでシステム企画に携わった後、93年に独立。現在「eCRM塾」(http://www11.ocn.ne.jp/~slowlife/)主宰。著書に「売れるしくみづくり」(ダイヤモンド社)、「コールセンター・マネジメント入門」(悠々社)、「コトラーのマーケティング戦略」(PHP研究所)など。「ITpro Watcher」で「CRM Watchdog」を連載中。