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 「IT産業は見捨てられた!」。経済産業省をはじめとする行政から,ITを活用するユーザー企業から,そして教育機関の大学からだ。にわかには信じられないかもしれないが,1つひとつの出来事から3者のIT産業に対する失望感が伝わってくる。

 例えば,「2005年に世界最先端のIT国家」という目標を掲げたe-Japan戦略。ブロードバンドなど通信インフラの整備・普及と,企業や行政,消費者におけるIT活用の利便性向上が骨子のe-Japanは直接,IT産業の育成・強化につながるものではなかった。だが,行政はユーザー企業などのIT活用が進むことで,新たな需要が喚起され,ITベンダーの売り上げや利益が増える。それを新技術や新商品の開発投資に振り向けられると読んでいたのかもしれない。

 そう考えると,今のところITベンダーはその期待に応えていないことになる。バブル崩壊後の業績低迷でITベンダーの体力は消耗し,技術開発力が弱まり競争力を失いつつあるからだ。しかもコスト削減が中心となり,投資意欲を失った結果,極端な言い方だがマイクロソフトやインテルをはじめとする輸入製品・技術に頼ることになる。反論する人もいるだろうが,「大手ITベンダーはIT輸入商社になってしまった」と皮肉る業界関係者は少なくない。

 国内ITベンダーの新技術や新商品を支持してきたユーザー企業の間からは「輸入製品でもいいのではないか」といった声が上がる。「ITは期待したほどの効果が出ないのに,投資金額は増える一方だ」と不満の声も高まる。学生からは過酷な労働実態が見え隠れするITサービス産業を嫌う傾向がはっきりしてきた。顧客もITサービス会社自身も喜ぶシステムを作れないからでもある。

育成の中心は情報家電にシフト

 こうした中で,経済産業省の産業構造審議会(情報経済分科会)が05年4月に出した情報経済・産業ビジョンは,まさしくIT産業を突き放す内容だった。IT化のステージがコンピュータ中心から情報家電に移ったという前提で,経産省は「テレビがプラットフォーム」になるとし,その上でどんなサービスを提供できるかが重要になると力説する。

 その根底には,情報家電を支える技術や部材の多くを日本メーカーが供給していることがあるという。5年前に日本電子工業振興協会と日本電子機械工業会が合併して誕生した電子情報技術産業協会(JIETA)の軸足もコンピュータではなく情報家電にあるようだ。個々の技術や部材を押さえている分野をますます強化し,世界をリードすることは重要な戦略ではある。

 だが,次世代を担う産業として振興されてきたIT産業を見捨てていいのか。確かにハードやソフトの技術を海外ITベンダーに依存し,内需中心の事業構造になりつつIT産業は,プリンタなど一部を除くと国際競争力のある製品は少ない。ソフトの輸出は輸入金額の約100分の1だ。このままハードやソフトの競争力を失えば,様々なところに影響が広がるだろう。追い上げる中国や韓国,台湾などとの勝負は目に見えてくるし,輸入が増え,輸出が減れば雇用にも影響するだろう。

 詳細な中身が分からない技術に依存して構築した情報システムの場合,トラブル対応が遅れる可能性もある。「日本企業にフィットしない製品を使い続けることで製品開発に影響を及ぼすこともある」と指摘する業界関係者もある。例えば自動車などのCAD(コンピュータによる設計)や半導体のEDA(電子設計自動化)などだという。そこに開発遅延などによる不採算プロジェクトが数多く発生すれば,ITベンダーはユーザー企業からシステム構築の信頼を失うことになる。

 それでも大手ITベンダーの中には「行政に頼らなくても,多くのことができる」と発言する人もいるが,では一体誰が旗を振るのか。ITベンダー自身で解決できる問題もあるだろうが,国全体として取り組むべき課題もあるはずだ。ITベンダーには将来ビジョン,例えば5年後,10年後の目標を設定し新しいことにチャレンジしてほしい。
 もちろん,すべての技術・製品を日本だけで供給できるはずはないので,選択と集中を実行する必要がある。今日,明日は儲からないから止めるということではなく,日本がどんな技術に投資し,どんな体制を築いていくのかを,産学官で議論するべきだろう。

 リューションだけで飯は食ってはいけない。ハードやソフトがなければソリューションの強さも維持できない。IT産業の競争力低下が日本に大きな影響を与えないうちに,そしてOSやプロセッサの技術者がいるうちに,何らかの手を打つ必要があるだろう。

(この原稿は日経コンピュータ2005年8月8日号に掲載した「ITアスペクト」に加筆したものです)