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米シスコシステムズのチャーニー・シニアバイスプレジデント
米シスコシステムズのチャーニー・シニアバイスプレジデント
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 固定電話網からIP網への移行が,通信事業者の大きな潮流になってきた。一方で,スカイプやグーグルなど通信事業者以外の企業が,無償のIP電話サービスを提供し,通信事業者と競合する動きもある。そこで,米シスコシステムズのジョン・チェンバースCEOのスポークスパーソンであるハワード・チャーニー・シニア・バイス・プレジデントに,通信事業者とNGNの将来を聞いた。(聞き手は山根 小雪=日経コミュニケーション

−−通信事業者が固定電話網をIP化し,「NGN」(next generation network)へ移行する動きが大きくなってきた。同じIPネットワークであるNGNと既存のインターネットは,将来も共存していくのか。

 既存のインターネットと通信事業者が構築するNGNは全く別のものだ。インターネットがベストエフォートで無償なのに対して,NGNはネットワーク品質やセキュリティを保証する。同様に,ルクセンブルクのスカイプ・テクノロジーズが提供している「スカイプ」のような無料のIP電話と,NGN上で提供される有償のIP電話も別のものだ。

 企業ユーザーの利用を考えると,この差はとても大きい。例えば当社では,カナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)のPDA「BlackBerry」の使用を禁止している。BlackBerryが持つメールやアドレス帳,カレンダーといった機能が営業担当者にとっては有用なことは認識しているが,セキュリティが保証できないとして,当社のシステム担当者は使用を許していない。だが,BlackBerryのセキュリティが保証されれば状況は変わる。インターネット上では無償で保証のないIP電話も,通信事業者のNGN上で展開されれば,企業でも抵抗なく利用できるものに変わるだろう。

−−インフラ・コストの負担をしていないスカイプや米グーグルなどのIP電話と,通信事業者の電話サービスが競合する現状をどう考えるか。

 確かにスカイプなどの新しいサービスは通信事業者にとって,大きな脅威だ。とはいえ,将来も同じ構図が続くがどうかは分からない。ベストエフォートでも十分な回線帯域が確保できるのであれば,スカイプなども高い音声品質を確保できる。しかし今後は,広帯域を必要とするアプリケーションが増えていくと予測され,いつまでも無償で現状の品質を維持し続けられるのか疑問に感じる。
 また通信事業者は電話サービス単体で提供するのではなく,データ・ストレージ・サービスやセキュリティ・サービスと組み合わせた高付加価値のソリューションを出してくるはず。こうしたソリューションは,自ら設備を保有してサービスを提供する通信事業者ならではだろう。賢い通信事業者は,非通信事業者がいくら画期的なサービスを提供しようと生き残れるはずだ。

−−英BTが発表した固定電話網のIP化計画「21世紀ネットワーク・プログラム」では,BTのインフラ上でBT以外のアプリケーション・プロバイダにもサービスを提供させる構想が盛り込まれている。将来,通信事業者は,サービス提供者というよりもプラットフォーム提供者になっていくのか。

 通信事業者のインフラが持つ課金や顧客データベースは非常に複雑なものだ。グーグルやスカイプといった非通信事業者が,一朝一夕にはまねのできない通信事業者の強みだ。そういう意味で言えば,通信事業者は今後もプラットフォームを提供し続ける。
 一方で,通信事業者が既存の固定電話網を捨てNGNに移行するのは,グーグルらが続々と繰り出してくる画期的な新サービスに対抗するためだ。通信事業者はIPをベースにした柔軟なインフラを構築し,自社でサービスを提供するだけでなく,他社のサービスにもインフラを提供してやればいい。
 通信事業者のインフラは将来,間違いなくIPになる。当社の競合となる世界各国の交換機メーカーも,続々とIP系製品を投入してきている。だが,当社こそがNGNの中心的な役割を果たしていく。通信事業者向けの次世代ルーター「CRS-1」や新ルーターOS「IOS-XR」などに力を入れているのもそのためだ。