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●イオンが実行したITによるビジネス改革の全体像
イオンは2005年2月期連結決算で経常利益が前年比18.8%増の1561億円と、5期連続最高益となった。一方、単独では18.7%の減益で、主力のGMS(総合スーパー)の不振が鮮明になっている。イオンは米ウォルマート・ストアーズなど世界規模の小売業にならった経営改革を実行中。それを支える情報システムに約750億円を投じ、体質改善を目指す。責任者として2001年からプロジェクトにかかわる縣あがた厚伸氏(51歳)に話を聞いた。

—イオンはここ最近、情報システムの大改革に取り組んできました。

 プロジェクトそのものは私が今の役職に就く前の1997年から始まっていました。当初は極秘プロジェクトで、ミニストップ(イオングループのコンビニエンスストア)に出向していた私も内容までは知りませんでした。

 昨年8月までに、システム導入がほぼ完了し、今はシステムを使いこなす段階に入っています。

 全体のテーマは、(米ウォルマート・ストアーズなどの)グローバル・リテーラー(小売業)と戦えるようになることです。「エブリデー・ロープライス(EDLP、毎日低価格)」と「エブリデー・ローコスト(EDLC、毎日低コスト)」を成り立たせるためにグローバル・リテーラーが持つ仕組みを、イオンでも取り込もうとしました。

 EDLPを実現するには、商品原価と販売管理費の両方を下げる必要があります。そこで、商品原価を下げる「IT物流統合プロジェクト」と、販売管理費を下げる「ビジネスプロセス改革(BPR)プロジェクト」を推進してきました([拡大表示])。投資額は合わせて約750億円に及びます。

750億円投資で直接取引拡大

 IT物流統合プロジェクトでは、コンサルティング会社の米カート・サーモン・アソシエイツの手を借りて戦略を立案しました。卸頼みではなく、自らの手で海外や国内メーカーから直接仕入れをしたり、プライベートブランド(「トップバリュ」など)の拡販を可能にする仕組みを作りました。

 ユニクロ(社名はファーストリテイリング)や無印良品(良品計画)のようなSPA(製造小売り)モデルをイオンも導入しようとしたということです。

 これまでのイオンは、商品管理を卸に任せていました。いわば「全部お任せマーチャンダイジング(商品政策)」だったのです。どこの拠点に何が何個あるか分からない状況では、メーカーに安価な製品を作ってもらって大量に引き取るリスクは取れません。これをIT(情報技術)で変える必要がありました。

 BPRプロジェクトでは、販売管理費の多くを占める人件費の構造改革を進めました。売り場作業をできるだけ自動化し、少人数で売り場を運営できるようにしました。

 例えば、値札を印刷するプリンターなどを台車に載せておき、これを押しながらシステムと無線でやり取りして、値札を張る作業を進められます。お客様から「この色のこのサイズが欲しい」と言われれば、近隣店舗の2時間前の在庫をその場で確認できます。

 店舗発注も基本的に自動化しました。本部側で商品ごとに在庫の最小値と最大値を設定してあり、最小値を割り込むと最大値まで補充するよう自動で発注します。発注確定前に店舗側で修正もできますが、グローサリー(加工食品)などの一部商品カテゴリーについては、店舗では修正できない仕組みです。こうして、発注にかかる時間は従来の7割減になりました。

 店舗の後方事務業務も集約しました。店舗の経理部門が処理していた経費精算などの作業はなくなり、シェアードサービス・センターにデータを飛ばして処理する仕組みにしました。

店舗業務効率化で成果

—成果は出ていますか。

 IT物流では、メーカーとの直接取引は約50社にまで増えました。プライベートブランドの売上高も「トップバリュ」だけで約2000億円(2005年2月期)に達しました。

 当初は、5年間の粗利益の増加分で約750億円分の投資の元が取れる計算でした。ただ、商品原価を下げられたものの、(デフレで)売価も下がったのが実情です。しかし、何もしないのに比べれば価格競争力は明らかに向上しました。売れる衣料品を作るといったことはITではできませんが、まずコストを下げるという土台はできました。

 BPRのほうでは、店舗の後方業務は、GMS(総合スーパー「ジャスコ」)の場合で2001年度の18.2人/月から、2004年度下期には5.7人/月まで削減できました。一部はパート契約を短縮したり退職してもらいましたが、大半は営業部門へ配置転換し、お客様向けのサービスを強化しています。年間70億~80億円分の人件費が売り場に回った計算になります。

—グローバル・リテーラーの手法が日本で通用するかどうかは、議論が分かれるところです。

 まずは受け入れてみないと、良いか悪いかは分からないでしょう。受け入れてみて、問題があるなら日本の実情に合うように変えていけばいいのです。

 例えば、店舗から発注の権限をすべて奪ってしまえば、日本の場合はモラルの低下につながります。でも、店舗発注ですべての商品の数量をきめ細かく調整できるかというと、人間の力では不可能です。まずITによる自動発注で、すべての商品に目が行き届くという最低ラインを押さえたうえで、その店舗の特徴を出していくことが必要だと考えています。

 こうしたことを実現するには、本部と店舗で情報を共有することが大変重要です。今回、在庫や発注数などを両者で共有できるようにしましたが、以前はどうなっているか分からない、という状況でした。情報が共有されていないと不信や無気力につながります。

 日本の小売業はまだまだ変わらなければなりません。マーチャンダイジングとか、本部と店舗の役割分担もどんどん見直す必要があります。イオンでは、そのための道具立てをITで作りましたが、使い方はこれから試行錯誤があると思います。

変化に対応できるITに

—新システム構築に際して、縣さんがこだわったのはどんな点ですか。

 イオンの場合、今後も事業構造や競争環境はどんどん変わることが予想されます。技術も進化します。急速な変化が起きても柔軟に対応できるインフラを作ることを強く意識しました。

 そのためには、データとネットワークを押さえることです。逆にいえば、(ハードウエアやソフトウエアなど)ほかのものはいつでも交換できるようにしておかなければなりません。

 私は、趣味でパソコンをいじるのが大好きで、ボード(基板)を差し替えたり、(工場出荷時の状態に)初期化してソフトを入れ直したり、いろいろやりました。

 特に熱中したのはミニストップの役員だった1990年代です。この時期は、ちょうどウインドウズやインターネットなど今につながる技術が出てきたころです。OS(基本ソフト)がどんどん変わり、ハードウエアが劇的に安くなるなど、技術の日進月歩ぶりを目の当たりにしました。

 個人向けのパソコンと企業システムが同じわけではありませんが、この実体験を今回のシステム構築に生かしました。まず、メーカー(ベンダー)にこだわらずにいいハード・ソフト製品を選んで組み合わせる「ベスト・オブ・ブリード(いいとこ取り)」を徹底しました。売上高4兆円のイオングループを支える大規模システムですから、実績があり性能が優れた製品だけを採用しました。

 特定のハードに依存する製品は極力避けました。例えばデータベース管理システムは米オラクル製を採用しました。オラクルなら、どんなメーカーのハードでも動くからです。特定のメーカーに依存せずにコストを下げる意図もありますが、それ以上に、今後起きる技術変化に備えることを重視しました。数年後に性能が優れた画期的なハードが出たらすぐに交換したいところですが、そのときにソフトなども全部交換しなければならない事態は避けたかったのです。

—メーカー側からは「リスクが高い」と言われるでしょう。

 確かにリスクはあると思います。完成した今だから、こうして話せるわけですが、世の中には失敗するケースもたくさんありますから。

 例えば、メーカーAの製品とメーカーBの製品を組み合わせたいのに、メーカーAは「リスクが高いので」と、自社製品だけの組み合わせを勧めてきます。そんなとき、私は「じゃあ、ほかに頼みます」と言います。すると、メーカー側はたいてい「できます、やります」と言ってくるわけです(笑)。

 組み合わせるには我々のほうにも力量が必要ですし、このようなリスクの高い判断をできるのは私だけです。部長ではなく、私がこうしろと言わなければできません。

 私が腹をくくれたのは、(ミニストップにいる間)長くイオンから離れていて、怖いもの知らずだったからかもしれません。


インタビュアーから

穏やかで理路整然とした語り口の理論派CIO。店舗や物流などの個々の情報システムの仕組みについて話し出すと止まらない。巨大プロジェクトでありながら、部下任せにせず、細部まで自分で把握していることがうかがえた。岡田元也社長とは、ミニストップ創業期の若手メンバーとして、一緒に英文マニュアル翻訳などの作業をした仲。ミニストップ出向中には、グループの「21世紀ビジョン」策定のため、リーダーだった岡田氏から呼び戻されたという。グローバル・リテーラーを目指す岡田社長のビジョンをだれよりも理解し、具現化に奔走している。