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元伊勢丹のカリスマバイヤー。瀕死の重傷を負っていた創業120年余りの老舗企業、福助を再建した。今年4月、イトーヨーカドーグループ代表の鈴木敏文氏に見込まれて、イトーヨーカ堂の立て直しに乗り出した。おしゃれを追求し続ける熱血漢が、福助再建のポイントと、ヨーカ堂衣料部門の活性化に対する抱負を熱っぽく語った。

●藤巻さんは、2003年10月に福助の社長になって、あっという間に老舗企業を再建しました。一番最初に旧本社を訪ねたときに、福助の状況をどう診断したのですか。藤巻流企業診断術についてうかがいたい。

藤巻 オフィスに行けば、一瞬で分かります。社員の顔色、あらゆるデータの作り方、プレゼンの資料などを見れば、すぐに分かります。言葉の意味や数字の裏、社内の空気とか、短時間のうちに全部を見て判断できないと、経営者は務まらないと思います。

 人の適性を判断するときも一瞬です。言いたいことが分かっていないと、リーダーとしては失格です。ダサイ格好をしている人はファッションが分かっていないから企画には向いていないとかね。ほとんど1時間も見れば、会社の状況が分かってきます。

バイヤー時代に磨いた眼力
現場を見れば不正も見抜ける

 私は、伊勢丹のバイヤーをやっていたときから、一番売れない売り場を一番売れるようにしたり、売れないブランド商品をたくさん売れるようにしたりしてきました。そのときに培ってきた現場での目利きってあるじゃないですか。そういう目を持っていれば、社員の不正だって見抜けます。

 目利きになるためには、とにかく相手に関心を持つことです。関心と好奇心が大事です。関心も好奇心も持ち続けている間は、そう簡単にはブレないと思います。自分の目で見て判断すれば、もし失敗したとき、正直に自分のせいにできます。経営者は、常に自分のせいにできるように、自分自身が現場を見なければいけないと思います。

●福助の旧本社(大阪府堺市)を訪れたときに、ほとんどすぐに分かってしまったわけですね。

藤巻 瞬間的にわかりました。受付にあった汚い花瓶を見て、ダサイと感じました。しかも、お客様がいらっしゃる玄関がホコリだらけ。だれも掃除をしていない会社です。しかも、(大事な顔である)玄関に荷物を置いているんです。「ふざけるな、このやろう」という感じです。要するに、お客様の目で見ていないんです。だから、玄関が汚いままになっている。

 常に一歩引いて、お客様の立場で自分の会社がどうなっているのか、しっかり見ていない会社は駄目だと思います。当時の福助は、内弁慶というか、たこつぼみたいな会社でした。

●駄目な会社だとすぐに分かったわけですが、「再生できる」と感じたのはなぜですか。

藤巻 生意気だけど、俺ならできると思いました。福助には約120年の歴史があるじゃないですか。会社の寿命は30年といわれるなかで、4回も通り抜けてきた会社には底力があります。福助の場合は製造技術に関して力がありました。自社工場じゃないですが、靴下を作る工場と非常に密接な関係を持っており、製造力があったのです。

 「バーバリー(英国のブランド)」の下請けをしていたということは、ある程度の技術とセンスがあったということです。さらに、百貨店やスーパーなど何万という店と取り引きがありました。普通、ゼロから始めてなかなか1万口座は取れないですよ。少なくとも販売力があったということです。後は、マーケティングをやって、無駄をなくせば、会社は生き返るという仮説を立てることができたのです。

 福助の持っている潜在能力を見極めないと駄目ですよね。最初に見極めたのが、(東京・千代田に本社を置く投資会社のMKSパートナーズ創業者で現社長の)松木伸男氏と(同社創業者の)川島隆明氏のコンビです。彼らが福助を見い出し、再生しようとした最初の志が良かったんだと思います。そこにたまたま僕という人間が入ってうまく組み合わさったということじゃないでしょうか。

 そして、消費者が味方をしてくれました。だから福助が再建に成功できたのです。会社というのは、社会の変化をとらえて、消費者を味方につければ、後は社内の人たちと取り巻きたちが一丸となれば、生まれ変わることができるのではないでしょうか。

 今の福助は、もう完全にオープンです。本当に裸になってやってきたという感じです。オープンだから、変なことができません。社員がみんな自分自身を追い込んでやってきたので、会社の中に力強さが生まれました。社員一人ひとりに人間力がついたと思います。

●再建に当たっては、投資会社の力も大きかったわけですね。

藤巻 あらためて振り返ってみると、福助が再建できたのは、外科手術と内科治療の両方がうまくできたからです。外科手術に関しては、まずMKSパートナーズが思い切ったコストカットを実施して、会社の財務を健全化させました。それから私が入って、人事を中心とする組織を変え、営業や製品企画、生産のやり方を見直していきました。

 (日産自動車のCEOである)ゴーンさんじゃないですが、ブランドの選択と集中をしなければならないとか、今の時代にお役に立てる企業になるにはどういうアイテムの製品をどう作っていかなければならないとか、いろいろとやってきました。靴下にしろ、下着にしろ、ストッキングにしろ、日用品であるけどファッションであるわけだから、堺市(大阪府)にいてはいけないと思って、すぐに本社を東京(渋谷)に移しました。

 一番の再生は何かというと、(内科治療によって)社員にやる気が出て、前に向かって勝とうという意識が出てきたことです。社員全員がコストを気にしだして、商売人になったら勝ちですよ。

 社員の意識を変えるために、怒鳴ったり、めちゃくちゃしました。普通はやりません。「訴えるなら訴えてみろ、おまえら」とやっていました。「おまえのためじゃあなくて、会社のためにやっているんだ」と。それで出て行った社員もいます。でも、ほとんどの社員が「藤巻社長のやり方で」ということで納得してもらいました。

 卸業の問題点は、製品を納めたら売り上げになってしまうことです。客に直接売る商売ではないので、自社ブランドを作って自ら売っていくことが必要だと考えました。今年3月に大宮駅(さいたま市)構内に直営のSPA(製造小売り)を開設したのはそのためです。常にシナリオを書いて、その通りに一つひとつ動かして、毎週チェックしフィードバックをかけることが、経営だと思います。

コンプレックスが原動力
自分の理想に負けたくない

●●これから福助はどうなっていきますか。

藤巻 福助は中国への進出が遅れたので、中国に資金と人材を投入しています。生産地としての中国と販売先としての中国を見据えていく必要があります。

 現在、今後福助はどこにいくのかという議論を進めていますが、福助というブランドが、靴下やストッキングから次のアイテムに行くという可能性もあるだろうし、卸業をベースにしながらも小売業への進出もあるだろうと思います。生産で利益を取るのか、小売りで利益を取るのか、検証中です。

●今、福助ブランドは、全体の売り上げの中の何%になりますか。そして、SPAについての取り組みはいかがですか。

藤巻 福助ブランドは、約270億円の中の3~4%ですね。今はそれでいいと思います。SPAについては、今後もっと増やしていく計画です。ある程度の数をやらないと、戦闘単位にはなりませんからね。その場合は全体のシステムも変えないといけません。

●藤巻さんには、ほかの経営者にない、底知れぬパワーを感じます。

藤巻 何でしょうね。僕は必ず答えているんですけど、自分自身コンプレックスの固まりなんです。本当に、子供のときは体も弱く、友だちも少なかった。結構いじめられて、病院通いも長く続いていたので、今こうやって生きていることだけででき過ぎだと思っています。ゼロからスタートしているから、すべてを失っても元に戻ればいいという覚悟があります。僕よりももっとひどいやつはいたけど、貧乏のなかからはい上がってきたから、今を全力で生き抜くしかないと考えています。来年か再来年か、また落ちるんじゃないか。そんな覚悟でやっています。

 いつも不安がありますよ。だから、友だちを大事にしています。

●うまくいっている会社の経営者ですら、なぜかみな不安を抱えていますね。

藤巻 僕なんか、不安だらけですね。だから、周りが気になるし、繊細になります。毎日不安とともに生きていますよ。だけれど、自分が立てた目標は絶対にやり抜こうと思っています。不安に打ち勝って、目標を実現できれば、気持ちがいいじゃないですか。

 小さいときから負けず嫌いでしたが、人に対してではなく、自分の理想に負けたくなかったのです。あいつより勝とうとか、全然ないですね。勉強もずっとできなかったし、ただ、自分の理想を持って、自分の何かと闘いたいというのはずっと思っていますよ。それが多分底知れぬパワーになっているんじゃないですか。

●藤巻さんは、かなりコミュニケーションを研究していますね。しょっちゅう映画も見るし、たくさんの本も読んでいます。経営者にとってコミュニケーション能力は重要だと思います。

藤巻 人が好きなだけです。だからコミュニケーションを良くしようと考えたのです。あくまで結果にすぎません。人脈の作り方といった類の本を出させていただいていて本当に有り難いんですが、実はそんなことをあまり考えたことはないんです。ただ、本当に人が好きで寂しかったから、人に出会いたいというだけです。

 小学校6年の時の気持ちが今でも残っています。当時転校が重なって、人となかなか出会えなくて、友だちになってほしいといろいろと努力しました。コミュニケーションを良くしようと思ったことはないけれど、コミュニケーション能力が高まったのは、友だちになろうとする努力を知らず知らずのうちに継続してやってきた結果だと思います。「継続は力なり」なのでしょう。

 やっぱり、人間に関心を持ち続けています。例えば、だれかにバーッと怒ったら、後から「言い過ぎたかな」と思っちゃう。元気がない顔を見ると、元気をつけてあげたくなる。自分が小さいとき、元気がないときに声をかけられ、「頑張れ」と言われた一言がうれしかったから、それを続けているだけです。

 おふくろからは「どうしてあなたがリーダーなの」とか、「あなた、なぜそんなに友だちが増えたの」とか言われています(笑)。

●さて、イトーヨーカ堂の衣料部門を立て直すという大きな仕事が与えられましたが、今のスーパーの衣料部門は色々な問題を抱えています。

藤巻 そうですね。一言では言えないけど、もう普通の物は要らないですよね。かといって、奇をてらったものも要らなくて、その時代感に合った色だとか、素材感とか、デザインとか、あるいはプロモーションの仕方とか、売り方とか、トータルでプロデュースしないと物が売れない時代になったということじゃないですか。

 もう安いから売れる時代じゃない。かといって、マーケティングをデザインせずにブランド品をそのまま売っても駄目です。実際は、ブランドの価値とは何かということを見据えたものしか売れません。そういう意味では本物の時代というか、本質を見極める時代に入ってきたんじゃないでしょうか。今は、大転換の時代だと思います。

●イトーヨーカドーグループ代表兼CEOの鈴木敏文さんは、藤巻さんの底知れぬパワーに期待しているのでしょうね。なかなか大変なチャレンジだと思いますが。

藤巻 衣料部門立て直しのシナリオは、一応半年分は書けています。福助のときと一緒で、スタートダッシュが肝心です。門が開いた瞬間に、バーッと内回りで一番効率的なポジションにつくしかありません。いわゆる短距離競馬の勝ち方です。わかりやすいでしょう。

 ダッシュしながら、目はゆっくりと周りを見ています。激変と微変のバランスですよ。激しく動きながら、微妙に変化するものを逃さない。自分で言うのも何ですが、23年間突っ走ってきましたが、激変と微変のバランスを取るのが得意なんです。とにかく頑張りますから、応援してください。


インタビュアーから

 藤巻さんはものすごいパワーの持ち主です。とにかく人が好きだという、愛情豊かな人です。その愛ゆえに、福助を一気に再建できたのでしょう。普通の経営者と違うのは、現場で培ってきた「目利き」にあります。瞬時にして人を見抜き、売れる商品を見抜き、売れない売り場を一番売れる売り場に変えることができるという、持ち前のセンスがあります。ただし、今取り組んでいる総合スーパーの衣料部門の立て直しはかなり高いハードルです。コンビニエンスストアを日米に根付かせた鈴木敏文さんですらできなかった難問に、藤巻さんは挑みます。